ジュリエット・ビノシュと河瀨直美が紡いだ「ビジョン」。
謎に包まれた物語に、ビノシュが見いだしたもの。
──"ビジョン"とは何なのか。岩田剛典さん演じる青年はいったい誰なのか。そもそもジャンヌはなぜこの山にやってきたのか。そのあたりが謎に包まれていて、サスペンスフルです。ビノシュさんは、ジャンヌは何を求めてやってきたとお思いですか。
「私自身、わかっているのは、人間には、闇の部分、隠された苦悩、裡なる葛藤というものがあるということ。でもその葛藤も、自分自身で探しに降りていかなければならない。自尊心を捨てて、自分は何もわかっていないこと、迷っていることを認め、謙虚さを体験することによって、そこにようやく光が見えてくる。
ジャンヌもビジョンという薬草が何だかわかっていない。しかも、どんなものか、感覚として感じ得ていない。でも、わかっているのは、苦悩と結びついている、人と結びついている、裡なるものと結びついているということ。自分はそれだけしかわかっていないのだと、認める勇気を持った時に、その人は光を生み出すことができる。そう思って演じたわ」
──では実際に、河瀨監督映画の中で生きてみていかがでしたか。
「河瀨監督はとてもインディペンデントで、自分にとって重要な事柄を口に出して語ることに躊躇しない勇気を持っている人。そして彼女と一緒に仕事をしてみて、彼女ならではの独特のアプローチ法を発見したわ。彼女は、たとえば、俳優のちょっとしたしぐさから、その人の真実を抜き出すというか、引き出すことができるの」
──では、きっとビノシュさんと河瀨監督との対話の中で抜き出されたものによって、"ビジョン"を探す物語も撮影中に変わっていったということですね。
「役者をやっていて楽しいのは、ひとつのアイデア、ひとつの台詞、ひとつのシーンを演じる時に、いままで自分が生きてきた経験をわざわざ思い返さなくても、現実が演技の方にやってくることがある。そうやって同時に、本当の自分はどういう人間なのを開拓しているの。今回も、そういう意味で、すごくわくわくする現場だったわ」
Juliette Binoche
パリ出身。12歳で舞台デビュー。1983年、『Liberty Bell』(原題)で映画初出演。85年には『ゴダールのマリア』『ランデヴー』など多数の作品に出演し、レオス・カラックス監督『汚れた血』で注目を浴びる。『存在の耐えられない軽さ』(88年)でハリウッド進出。クシシュトフ・キェシロフスキ監督『トリコロール/青の愛』(94年)ではヴェネツィア、アンソニー・ミンゲラ監督『イングリッシュ・ペイシェント』(97年)ではベルリン、アッバス・キアロスタミ監督『トスカーナの贋作』(2011年)ではカンヌと。世界三大映画祭すべてにおいて女優賞を受賞。『ショコラ』(01年)ではアカデミー賞主演女優賞にもノミネートされた。
『Vision』
●監督・脚本/河瀨直美
●2018 年、日本・フランス映画
●110 分
●配給/LDH PICTURES
©2018 "Vision" LDH JAPAN, SLOT MACHINE, KUMIE INC.
全国公開中
http://vision-movie.jp
interview et texte : REIKO KUBO