最新記事

世界経済

アメリカがグローバル経済の牽引役に返り咲く日

新興国が景気減速に苦しむなか、ひとり復活したアメリカこそが注目すべき「新興市場」だ

2015年10月7日(水)15時06分
アフシン・モラビ(本誌コラムニスト)

世界を席巻 iPhoneのような製品を生み出す土壌は今も健在 Damir Sagolj-REUTERS

 世界は「アメリカ後」のさらに次の段階に入ったのだろうか。中国の経済減速と先行き不透明感、長引くユーロ圏の低迷、新興市場の不確実性が重くのしかかり、グローバル経済は迷走......今やアメリカ経済だけが「希望の星」だ。

 ジャーナリストで元本誌国際版編集長のファリード・ザカリアが『アメリカ後の世界』を出版したのは08年。当時、新興国は経済成長の波に乗って自信満々だった。その自信は時として傲慢を生んだ。例えばブラジルのアモリン外相はオフィスに世界地図をわざと逆さに貼った。世界は変化している、古い地図はもう重要じゃない、というパフォーマンスだった。

 しかし地図はともかく、経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)は重要だ。技術革新も、生産性の伸びも、経済的・政治的自由も重要だ。経済のファンダメンタルズについては今も昔ながらの法則が当てはまる──返済の当てもなく借金がかさめば危機の引き金になる。ギリシャなどユーロ圏の債務漬けの国々を見るといい。

 新興国の債務は07年末の2兆8000億ドルから現在は7兆5000億ドルに膨れ上がっている。中国だけで1兆6700億ドル。危機から学ぶなんて嘘っぱちだ。

 吹き荒れる嵐は新興国の経済基盤の脆弱さを露呈している。商品価格の下落、中国経済の減速、生産性の伸び率低迷、アメリカのゼロ金利政策の解除観測をめぐる懸念が、新興国経済を揺さぶっている。

 なぜアメリカの金利が新興国経済を大きく左右するのか。1つには、アメリカが今も世界に冠たる経済大国であり、その金利の動向が金融市場全体に波及するからだ。具体的には、これまではアメリカのゼロ金利政策を受けて、より高金利な新興国債券に資本が殺到してきた。その資本の多くが今度はアメリカの利上げ観測と新興市場の先行き不安を背景に、新興市場から引き揚げようとしている。

世界一革新的な米企業

 しかし今引き揚げるのはタイミングが悪い。多くの新興国通貨は対ドルで02年以来最低水準。かつて中国やインドと共にBRICSと呼ばれ急成長を期待されたブラジルやロシアは景気後退の真っ最中だ。トルコは経常赤字に苦しんでいる。インドでは昨年モディ政権が誕生し、ビジネス重視の改革が進むと期待されたが、「モディノミクス」は早くも官僚主義とインフラと政治の壁にぶつかっている。中国は非常に重要な経済大国だが、急発進や急停止を繰り返し、まるで素人が運転するマニュアル車。危なっかしくて乗っていられない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:保護政策で生産力と競争力低下、ブラジル自

ワールド

焦点:アサド氏逃亡劇の内幕、現金や機密情報を秘密裏

ワールド

米、クリミアのロシア領認定の用意 ウクライナ和平で

ワールド

トランプ氏、ウクライナ和平仲介撤退の可能性明言 進
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 4
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 5
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 6
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 7
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 8
    300マイル走破で足がこうなる...ウルトラランナーの…
  • 9
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 10
    今のアメリカは「文革期の中国」と同じ...中国人すら…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 4
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 5
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 6
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中