最新記事

FRB

イエレンの実力について知っておくべき6つの事実

次期FRB議長に指名されたジャネット・イエレンはバーナンキを上回る頭脳と実績の持ち主だ

2013年10月22日(火)16時17分
マシュー・イグレシアス

後継者 バーナンキ路線を引き継ぐとみられるイエレンにオバマも満足? Jonathan Ernst-Reuters

 FRB(米連邦準備理事会)副議長のジャネット・イエレン(67)が、オバマ米大統領により次期FRB議長に指名された。有力候補と目されていたサマーズ元財務長官の資質をめぐる騒動(と候補辞退)の陰で、イエレンの人物像は見落とされがちだった。以下にまとめよう。

①史上最もFRB議長にふさわしい人物

 バーナンキ現議長はFRB理事、大統領経済諮問委員会(CEA)委員長を経てFRB議長に就任した。イエレンはこれを上回る実績の持ち主だ。CEA委員長やFRB理事のほか、サンフランシスコ連銀総裁を6年半、過去3年間はFRB副議長を務めた。経験の豊富さでは歴代議長をしのぐ。

②アメリカの経済政策史上で最も影響力のある女性

 女性の出世を阻む「ガラスの天井」を打ち破ったのが超一流の能力を持つ人物だったのは、偶然ではないだろう。女性のFRB議長は史上初。他の先進国でも女性が中央銀行総裁を務めた例はない。アメリカでは、女性の財務長官や国家経済会議(NEC)委員長もまだいない。

③金融政策に関しては柔軟なハト派

 イエレンはインフレ抑制より成長を重視する「ハト派」だという見方を、側近は否定したがる。しかし彼女自身、そうだと認めるべきだ。現在の金融政策論議は二つに分かれている──過度なインフレには金融引き締めが良策という考えと、過度なインフレでなくても金融引き締めが良策という考えだ。タカ派というのは後者のような石頭のことで、イエレンのような前者はハト派。イエレンは、現実に沿った金融政策を支持している。

④財政刺激策の効果を重視

 短期金利がゼロなら、金融政策は財政刺激策や財政緊縮の効果を相殺するのかなど議論は多々あるが、イエレンは、今の景気回復局面では、財政引き締めは経済成長の足を引っ張るという立場を明確にしている。

⑤夫はノーベル経済学賞受賞者

 イエレンはエール大学で博士号を取得し、ハーバード大学准教授、カリフォルニア大学バークレー校教授を務めるという輝かしい経歴を持つ。だが学者としてより、政策立案者として頭角を現した。夫のジョージ・アカロフはノーベル経済学賞を受賞した学者。そのアイデアは政権内部や議員などの間で検討されるほどだが、本人が政策立案に関わったことはない。

⑥銀行規制の考え方は?

 銀行規制についての発言が少ないイエレンだが、全米企業エコノミスト協会で行ったスピーチに3つのヒントを見つけた。

資本とレバレッジを重視

「大き過ぎてつぶせない」金融機関の保護を重視する人もいれば、金融機関の処理を重視する人もいる。イエレンは銀行の自己資本と負債の関係を重視する立場。自己資本を厚くし借金を減らせば倒産する確率も減る。

国際金融規制では現実主義

 金融は世界規模の競争産業。それでも厳しい規制をかけるべきだという考え方と、反対に、あらゆる規制は多国間で締結されている「バーゼル規制」に準じるべきだとの考え方がある。イエレンは、どちらも行き過ぎは好ましくないという立場だ。

金融政策と銀行規制は別物

 銀行部門の規制はマクロ経済に影響を与え、金融政策は銀行の経営戦略に影響を与える。だから、銀行規制を見据えて金融政策は実施されるべきだと考える人は少なくない。イエレンはこれを否定し、FRBは両者は切り離して扱うべきだと発言している。オバマに任命されたFRB理事たちもイエレンの考えに賛成するかどうか、今後に注目が集まる。

© 2013, Slate

[2013年10月22日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中