ネット監視、本当の悪夢
NSAやその他の情報機関がセキュリティー手続きを強化すればいいだけのことではないか、と思うかもしれない。実際、NSAなどはそういう対策を実施すると約束している。
例えば、NSAのキース・アレグザンダー長官は、セキュリティー強化の一環として「2人ルール」を導入する意向だという。機密性の高い情報にアクセスするためには、ほかの少なくとも1人のスタッフの了承を得るものとするというのだ。
理にかなった対策ではあるが、情報への不正アクセスを完全に排除できる保証はない。NSAでは、約1000人のシステム管理者が働いている。この人たちがスノーデンのようなずさんな身元調査で採用されているとすれば、組織の内部にハッカーコンビが入り込んでいる可能性も考えられる。
スタッフの身元調査をあらためて実施し、ネット上での書き込みを調べるなどして危険な兆候の有無をチェックすることは可能だ。しかし、この方法であぶり出せるのはホワイトハットだけ。ブラックハットは、自分の思想信条を正直にネット上に書き込んだりはしない。
私のことを過度な心配性だと思う人もいるだろう。確かに、スノーデンが裁判書類や監視システムの概要を記した文書を入手していたことは明らかだが、個別の通信情報にアクセスしていたかは分かっていない。
最悪の可能性が現実に?
政府の監視プログラムに協力していた大手ネット企業によれば、政府が個々の顧客の通信情報を入手するためには個別の法的手続きを踏む必要があるという。そうだとすれば、その気になれば連邦判事や大統領の通信記録を入手することも可能だったというスノーデンの主張は信憑性を欠く。
しかし、心配し過ぎて悪いことはない。こうした問題では、過剰なまでに警戒することこそ、最も合理的な態度に思える。
ネット時代に個人の私的な情報を他人に知られたくなければ、自分でコントロールできないデータベースに個人情報が記録されることを一切避けるしかない。
プライバシー保護の徹底したサービスを利用する場合であっても、私的なデータにネット上でアクセスし、検索し、共有することが可能な状態にするのであれば、最悪の事態を覚悟するべきだ。地球上のすべての人がそのデータにアクセスし、検索し、共有できる状態になる危険と隣り合わせだからだ。
NSAの監視システムの問題は、私たちの個人情報がそういう危険な状態に置かれてしまっていることにある。NSAは、収集した個人情報を乱用したり、漏洩したりしないと約束している。しかし、情報価値の高さを考えると、それを手に入れたい勢力は多い。そして、1回でもハッキングが行われれば、データは複製されて、たちまち世界中に拡散されてしまう。
政府が集めた個人の通信記録にアクセスできるのは、スノーデンのような「ホワイトハット」ばかりではない。その人物がデータをオンライン上に公開する可能性もある。成り済ましのために他人の個人情報を欲しがる人物に情報を売ったり、本人を脅迫したりするかもしれない。政治家や経済界の要人、裁判官、航空機の安全管理を担当する政府機関の職員を脅して、言うことを聞かせようとするかもしれない。
過剰反応? そうかもしれない。しかし、30歳になったばかりの若者が政府の重要な機密データを盗み出し、今はプーチン政権のロシアに身を隠しているという現実を前に、心配するなというほうが無理がある。
[2013年7月 9日号掲載]