最新記事

共和党

副大統領候補ライアンはロムニーの大誤算

「超保守派」の支持を受けるライアンを相棒に選んだおかげで、ロムニーは時代遅れの財政緊縮策に縛られる羽目になる

2012年10月11日(木)17時38分
ピーター・バイナート(政治評論家、ニューヨーク市立大学准教授)

立場が逆転 共和党ではロムニー(右)のほうがライアンの引き立て役? Shannon Stapleton -Reuters

 11月の米大統領選に向けて共和党候補のミット・ロムニーは今月初め、ポール・ライアン下院予算委員長を副大統領候補に指名した。これはいわば極右のクーデターだ。

 予備選ではより右寄りのライバルが次々とロムニーの前に立ちはだかった。リック・ペリー・テキサス州知事、リック・サントラム元上院議員、ニュート・ギングリッチ元下院議長......。彼らが共和党の有権者にとってさえ右寄り過ぎたこともロムニーが勝利した一因だった。それでも浮動層が関心を寄せる移民や人工妊娠中絶といった問題でロムニーは右に引っ張られてきた。5月の世論調査ではアメリカ人の大部分がロムニーは保守的過ぎると回答している。

 健全な政党なら、そういうとき候補は中道に寄る。共和党への支持はヒスパニック、独身女性、若者の間で伸び悩んでいる。逆に言えば、これらの層はいずれも支持拡大の鍵だが、ロムニーはこれといった接点がない。普通なら、ロムニーの代わりにどの層にもアピールできる副大統領候補を選んだはずだ。

 健全な政党なら党と国のイデオロギー的傾向の溝を自覚し、候補に橋渡しの余地を与える。メディケア(高齢者医療保険制度)や社会保障制度など中流向け給付金制度を攻撃しても、ほとんどの国民は喜ばない。

 05年、ライアンの忠告に従って社会保障制度を一部民営化しようとしたブッシュ大統領は致命傷を負った。アメリカ人は建前上は「小さい政府」を歓迎しても、医療保険、教育、インフラなど具体的な予算項目では歳出拡大を支持する人が多い。共和党でも大多数が歳出削減のみによる赤字削減は支持しない。

 言い換えれば、ロムニーは保守派基盤の支持強化のため、ひどく評判の悪い意見の持ち主を副大統領候補に選んだわけだ。その結果、自身と共和党に対する有権者の不信感を一掃する絶好の機会をふいにした。

 これではオバマの思う壺だ。96年の大統領選でクリントン陣営は盛んに共和党のボブ・ドール候補を福祉抑制の急先鋒だったギングリッチと結び付けようとした。ライアンの指名はそのギングリッチを副大統領候補に指名するようなものだ。

「変節者」のレッテルも

 それだけではない。ロムニーは「変節者」という印象を増している。人工妊娠中絶や同性婚については態度を二転三転。知事時代に医療保険改革を実施したのに、それをモデルにしたオバマ政権の医療保険改革法は厳しく批判する。かつてパレスチナ国家を支持すると発言したくせに、大口献金者で熱烈なイスラエル支持者のシェルドン・エーデルソンを伴ってエルサレムを訪れた際はイスラエル寄りの発言に終始──。そして今度は右派の圧力に屈してライアンを副大統領候補に指名した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ミャンマー地震、インフラ被災で遅れる支援 死者1万

ビジネス

年内2回利下げが依然妥当、インフレ動向で自信は低下

ワールド

米国防長官「抑止を再構築」、中谷防衛相と会談 防衛

ビジネス

アラスカ州知事、アジア歴訪成果を政権に説明へ 天然
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...スポーツ好きの48歳カメラマンが体験した尿酸値との格闘
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    最古の記録が大幅更新? アルファベットの起源に驚…
  • 5
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 6
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 7
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 10
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 6
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 7
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中