副大統領候補ライアンはロムニーの大誤算
「超保守派」の支持を受けるライアンを相棒に選んだおかげで、ロムニーは時代遅れの財政緊縮策に縛られる羽目になる
立場が逆転 共和党ではロムニー(右)のほうがライアンの引き立て役? Shannon Stapleton -Reuters
11月の米大統領選に向けて共和党候補のミット・ロムニーは今月初め、ポール・ライアン下院予算委員長を副大統領候補に指名した。これはいわば極右のクーデターだ。
予備選ではより右寄りのライバルが次々とロムニーの前に立ちはだかった。リック・ペリー・テキサス州知事、リック・サントラム元上院議員、ニュート・ギングリッチ元下院議長......。彼らが共和党の有権者にとってさえ右寄り過ぎたこともロムニーが勝利した一因だった。それでも浮動層が関心を寄せる移民や人工妊娠中絶といった問題でロムニーは右に引っ張られてきた。5月の世論調査ではアメリカ人の大部分がロムニーは保守的過ぎると回答している。
健全な政党なら、そういうとき候補は中道に寄る。共和党への支持はヒスパニック、独身女性、若者の間で伸び悩んでいる。逆に言えば、これらの層はいずれも支持拡大の鍵だが、ロムニーはこれといった接点がない。普通なら、ロムニーの代わりにどの層にもアピールできる副大統領候補を選んだはずだ。
健全な政党なら党と国のイデオロギー的傾向の溝を自覚し、候補に橋渡しの余地を与える。メディケア(高齢者医療保険制度)や社会保障制度など中流向け給付金制度を攻撃しても、ほとんどの国民は喜ばない。
05年、ライアンの忠告に従って社会保障制度を一部民営化しようとしたブッシュ大統領は致命傷を負った。アメリカ人は建前上は「小さい政府」を歓迎しても、医療保険、教育、インフラなど具体的な予算項目では歳出拡大を支持する人が多い。共和党でも大多数が歳出削減のみによる赤字削減は支持しない。
言い換えれば、ロムニーは保守派基盤の支持強化のため、ひどく評判の悪い意見の持ち主を副大統領候補に選んだわけだ。その結果、自身と共和党に対する有権者の不信感を一掃する絶好の機会をふいにした。
これではオバマの思う壺だ。96年の大統領選でクリントン陣営は盛んに共和党のボブ・ドール候補を福祉抑制の急先鋒だったギングリッチと結び付けようとした。ライアンの指名はそのギングリッチを副大統領候補に指名するようなものだ。
「変節者」のレッテルも
それだけではない。ロムニーは「変節者」という印象を増している。人工妊娠中絶や同性婚については態度を二転三転。知事時代に医療保険改革を実施したのに、それをモデルにしたオバマ政権の医療保険改革法は厳しく批判する。かつてパレスチナ国家を支持すると発言したくせに、大口献金者で熱烈なイスラエル支持者のシェルドン・エーデルソンを伴ってエルサレムを訪れた際はイスラエル寄りの発言に終始──。そして今度は右派の圧力に屈してライアンを副大統領候補に指名した。