最新記事

米大統領選

ブッシュ徹底排除、共和党員の複雑な本音

大統領候補を指名する共和党大会で、ブッシュ前大統領の登場はビデオ映像だけ。前政権の8年間を「封印」する戦略には批判的な声も

2012年9月3日(月)15時55分
デービッド・ウィーゲル

忘れたい過去 共和党大会にビデオで登場したブッシュ親子(8月29日、タンパ) Mike Segar-Reuters

 秋の大統領選に向け、フロリダ州タンパで行われた米共和党全国大会の3日目のこと。舞台の照明が落ちたかと思うと、満を持して、あの男が姿を現した。ジョージ・W・ブッシュ前大統領だ!

 ただし、登場したのは実物ではなく、スクリーンに映し出されたビデオ映像だった。ビデオの冒頭でブッシュは、大統領就任後、ホワイトハウスの主となった自分の姿を父親であるジョージ・H・W・ブッシュ元大統領に初めて見せた日を回想する。あの時、どれほど誇らしく感じたことか――。

 すると今度は、カメラの前に父ブッシュが現れ、当時の思い出を語りだす。「私はホワイトハウスのバスタブにつかっていたんだ」と、父ブッシュはジョークを飛ばした。「そうしたら、側近がやって来て言うじゃないか。風呂から出てください、大統領は息子さんなんですよ!」

 今度は息子ブッシュが語った。「私たちはこう言い合った。『ようこそ、ミスター・プレジデント』、『こちらこそ会えてうれしいよ、ミスター・プレジデント』。交わした言葉はそれくらいかな」

 昔を懐かしむご老人2人を映し出すこの5分間のビデオ映像が、今回の共和党大会が前政権について触れたほぼ唯一の瞬間だった。これを除けば、「ジョージ・W・ブッシュ」という名前が党大会の演説に登場することはほぼなかった。

登壇すれば大喝采を受けたはずだが

 副大統領候補に指名されたポール・ライアン下院予算委員長は、バラク・オバマが「引き継いだ」経済が今回の選挙の争点ではないと語った。だが、誰から「引き継いだ」のかには触れずじまい。前アーカンソー州知事のマイク・ハッカビーは、オバマは「前任者のせいにしている」と批判したが、その「前任者」の名前は出さなかった。

「オバマ大統領にブッシュ政権の話を持ち出させないようにするのが賢明だ」と、ブッシュ政権で大統領報道官を務めたアリ・フライシャーは言う。「人間というのは、自分の目の前にあること以外は考えないものだ。もしブッシュが実際に登壇したら、大喝采を受けただろう。それでも人々は、ブッシュが実際に登場しなくてホッとしたに違いない」

 彼らの胸の内は分からなくもない。だが8年間のブッシュ政権をなかったことにしようというのは、なんとも不自然だ。「彼は会場に来るべきだった」と、共和党のデニス・ハスタート元下院議長は語る。「私たちは彼を称えるべきだ。私が下院議長を務めていたブッシュ政権初めの2年間で、私たちは公債を約6500億ドルも削減した。その間に9・11が起こった。確かに政府支出は増えたが、そのほとんどは国防費や安全保障費だった」

 だが、世論調査からは別の見方がみてとれる。現在の不況の原因はオバマよりもブッシュにあると考えている国民のほうが、いまだに多数を占めているのだ。

 だからこそ、元フロリダ州知事でブッシュ前大統領の弟ジェブ・ブッシュは、共和党大会で初めて、ビデオではなく生身の人間としてブッシュの名前を口にしなければならなかった。「失政を兄ブッシュのせいにするのはやめろ」とオバマ批判を行ったのだ。ジェブは事前にFOXニュースに対し、兄を擁護することが自分の務めだ、と話していた。「今は、それこそが私の生涯の役目なんだ」

© 2012, Slate

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

神田財務官、介入有無コメントせず 過度な変動「看過

ワールド

タイ内閣改造、財務相に前証取会長 外相は辞任

ワールド

中国主席、仏・セルビア・ハンガリー訪問へ 5年ぶり

ビジネス

米エリオット、住友商事に数百億円規模の出資=BBG
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 7

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中