最新記事

アメリカ経済

見た目より米雇用ははるかに悪化している

5月の雇用統計は予想を大幅に下回ったが大統領選を前にオバマも議会も身動きが取れない

2012年7月10日(火)14時43分
マシュー・イグレシアス

全然足りない 今の雇用増は人口増で相殺される程度で、失業率は改善しない(ロサンゼルスの求職者) Marcelo Del Pozo-Reuters

 米労働統計局が先週発表した5月の米雇用統計は、非農業部門の雇用者数がわずか6万9000人増と、専門家の事前予想をはるかに下回った。

昨冬のような毎月20万人以上の雇用増を期待していたわけではない。まして過去の景気回復期に付き物の月30万〜40万人の雇用増などあり得ないのは分かっている。それにしても、せめて14万〜15万人分の新規雇用があれば、失業者も少しずつ雇用市場に吸収されていくはず。だがたった6万9000人では、人口増で相殺されてしまう。

それだけではない。毎月新しい統計が発表されるたびに、労働統計局はその前2カ月の統計の修正値を発表するのだが、これがまた惨憺たるものだった。

4月の雇用増は、そこそこの11万5000人からたったの7万7000人に下方修正された。3月も15万4000人から14万3000人に修正された。

雇用が力強く回復し楽観的な見方が強かった冬の間、過去の統計値はしばしば上方修正された。最初の調査では見つからなかった強い成長分野がいくつもある証拠だ。雇用件数の下方修正は逆に、起業のペースが著しく遅いせいであることが多い。

つまり今回の雇用統計には良い材料が1つもない。

悲劇的なのは、この事態は避けられたということだ。

バーナンキの政策ミス

 失業率が高止まりするのをいかにして避けるか。普通の10年物国債と、インフレ率にスライドするタイプの国債との間の金利差を考えれば分かる。これらの商品は期間も同じで政府が保証している点も同じ。ということは、両者の間の利回りの差は、市場が考える今後10年間のインフレ率に等しいはずだ。その金利差が、ヨーロッパ債務危機や中国・インドの成長率鈍化が始まった3月中旬から縮小し続けている。

 インフレ期待が下がるのはいいことだと思う人もいるかもしれない。だが今回の「大不況」の代表的な特徴は、株価とインフレ期待の相関性が極めて高いことだ。インフレ期待が下がれば株価も下がるのだ。

 これは歴史を通じても珍しいことで、深刻な景気後退下にある経済に特有の特徴を表している。FRB(米連邦準備理事会)は既に名目金利をゼロに下げており、これ以上借り入れコストを下げるにはインフレを起こすしかない。人々が将来はインフレになると思えば思うほど今の金利は低く見え、人々は今のうちに住宅や車やビジネスに投資しようと思う。

 FRBのバーナンキ議長は、インフレ期待が下がって実質金利が上がることは断固として阻止すると宣言することもできたはずだ。そうすれば、建設や他の主要業種は失速せずに済んだだろう。だがバーナンキは、もし景気が再び悪化したら量的緩和を再び行うと言っただけだ。

 政策転換は今からでも遅くない。バーナンキは中期的に緩やかかつ持続的に上昇するインフレ率こそが経済にとって最も健全だと言えばいい。

 連邦政府にできることは多くないが、やるべきことはある。来年1月から自動的な増税や歳出の強制削減が始まり、景気が一気に悪化する「財政の崖」問題を解決するのもその1つ。連邦政府がお金を借りるときと同じ超低金利で州政府に資金を融通し、減税に使うか、2年前に解雇されたままの労働者を公共部門で雇い直す手もある。

 だが現実には、何か対策を行うには大統領選が近過ぎる。景気や雇用が回復すればオバマの手柄になる。議会を支配する共和党が、オバマの得になるようなことをするはずはない。

[2012年6月13日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中