マイケルを死に追いやった麻酔薬プロポフォールの脅威
解毒剤はなく救済は困難
即効性のあるプロポフォールは外来麻酔として広く使われているため、投与された経験がある人は大勢いる。経験者の約3分の1は記憶がなく、約3分の1は夢を見たが内容までは思い出せないという。残りは「鮮明で、時に性的な夢」を見ていると、ブライソンは言う。薬が切れた後は、熟睡した後のように活力が湧く人もいる。
マイケルにプロポフォールを処方したのは、彼がコンサートのリハーサルのために活力を欲しがったからだとマレーは語った。だがこの薬は疲労回復を助けるような眠りをもたらさない。かえって常用して依存状態になると、薬が切れたときに何もできなくなる。
プロポフォールは89年に認可されて以来、医療関係者による乱用の報告が数多く上がっている。モルヒネのような規制薬物ではないため病院の保管が甘く、くすねるのが簡単だからだ。07年の調査では、プロポフォール乱用事件の18%が医師または看護師によるもので、10年前の6倍だった。
医療関係者以外の乱用も増えている。プロポフォールを投与された患者の中には「気に入って、どういう薬か知りたがる」人もいると、ブライソンは言う。大抵は「それまで薬物依存になったことのない人たちだ」。
ある男性は頭痛で処方された後で病みつきになり、獣医から入手を続けて過剰摂取で意識不明のところを発見された。09年には自宅で死亡している女性が発見されたが、彼女は看護師の友人から薬をもらっていた。
プロポフォール依存者の30%以上が死に至ると、カリフォルニア州麻酔医協会のケネス・ポーカー会長は言う。マイケルの場合、プロポフォールは心不全を引き起こした。この薬は他の麻酔薬とは違い、解毒効果のある薬がないため、過剰摂取した人を簡単に助ける方法はない。プロポフォールの乱用者25人を対象としたある研究では、7人が死亡している。
乱用の増加を恐れる全米麻酔学会は昨年、プロポフォールを規制薬物とする米麻薬取締局(DEA)の提案を公式に支持した。だが具体的な対策はまだ何も取られていない。
[2011年10月26日号掲載]