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天才ヨット少女の冒険は親のエゴ?

世界最年少のヨット世界一周に挑戦、一時遭難した16歳少女の親に非難が殺到。天才児の挑戦はどこまで許されるべきか

2010年6月16日(水)17時23分
ジョアンナ・コーンブラット

死んでいたかもしれない アビー・サンダーランドの父親が、テレビのリアリティー番組と契約していたという報道もあった

 世界最年少のヨット単独世界一周航海に挑戦していたアビー・サンダーランド(16)が、インド洋上で一時行方不明となったは6月10日のこと。緊急遭難信号を受けて捜索活動が行われたが、翌11日に無事発見された。

 サンダーランドが今年1月に米カリフォルニア州を出航した後、父親がテレビのリアリティー番組と契約を結んでいたとの報道があり(母親は契約の存在を否定)、ともするとこんな成り行きだったようにも思える――両親が手っ取り早い金儲けを狙い、ビデオゲームに興じていた10代の娘をヨットに乗せて、無理やり)世界一周の旅に向かわせた。

 しかし、自分たちの物語が面白い番組になるとサンダーランド一家が思っていたにせよ、いないにせよ、彼らはテレビカメラを意識してヨットに情熱を注いでいたわけではない。サンダーランドと彼女の兄弟はヨットに関して類まれなる才能を発揮し、何年もかけて素晴らしい技術を身につけてきた、というのが真実だ。インド洋で一時消息を絶ったサンダーランドが危機を乗り越えて生還できたのは、そうしたと知恵と技術のおかげだと専門家は指摘している。

 しかし、能力があるからといって、彼女は航海に挑戦すべきだったのだろうか? 才能に恵まれた子供を持つ親はしばしば同様のジレンマに直面する。親は子供の才能と意欲をどこまで後押ししてやるべきなのか? 少なくとも高校を卒業するまでは、どの程度まで口出しをするべきなのか?


優秀な子は失敗で鬱になりやすい

「スポーツでも音楽でも学問でも、ある分野で並はずれた才能を持つ子供は、親が無理強いさせ過ぎたせいで発達上の問題を抱えることが多々ある。それにどんな理由があっても、子供の命を危険にさらす行為は許されない」と、エール大学児童研究所の心理学者エレーナ・グリゴレンコは言う。「今回の遭難はひどい経験だったし、さらにひどい結果を招いた可能性もある」。グリゴレンコによれば、命を落としかねない行為に挑戦させるのは親として間違っている(ただし、カリフォルニア州ベンチューラ郡の児童福祉担当者はサンダーランドの航海を許可していたらしい)。

 たとえ海で遭難するような危険がなくても、幼い頃から1つの技術や関心事に子供を専念させることは、大人になってからの問題を招く可能性があると、グリゴレンコは言う。彼女の研究では、卒業生総代を務めた子供はその後の人生で成功しないケースが多かったという。「たいていの場合、子供の才能を伸ばすには多くの犠牲が伴う。ほとんどの神童は途中で燃え尽きてしまう」

 航海が失敗した結果、サンダーランドが鬱症状に陥る可能性もあるとグリゴレンコは指摘する。「達成不可能な目標を設定したとき、人は鬱になりやすい」。彼女の研究では、能力に恵まれ、勝つことに慣れた子供はそうでない子供に比べ、失敗によって傷つきやすいことがわかっている。親は才能豊かな子供が高い目標を設定するのを手助けしてやる必要があるが、その目標は現実的なものでなければならない。

 天才児のいる家庭は家族全員の心の健康にも気を配る必要があると、神童研究の専門家であるタフツ大学のデービッド・フェルドマン教授は話す。親が1人の子供にカネも手間も費やせば、他の子供に悪影響が出ることが多いという(7人の子を持ち、8人目が誕生予定のサンダーランドの父は生活が苦しかったとニューヨーク・ポスト紙に明かしている。しかし、彼が経済的な理由で娘を危険な航海に挑戦させたのかどうかは不明なままだ)。

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