最新記事

アメリカ政治

シカゴ落選を喜ぶ保守派の「品格」

2016年夏季五輪の招致失敗にアメリカの右派が大喜びしたのは、オバマたたきの口実を見つけたからだ

2009年10月6日(火)18時55分
スティーブン・ウォルト(ハーバード大学ケネディ行政大学院国際関係論教授)

最後の切り札 コペンハーゲンで開かれたIOC総会で招致演説を行ったオバマ米大統領夫妻(10月2日) Reuters

 有力な政治ブログ「トーキング・ポインツ・メモ」は、2016年夏季五輪の開催地を決める投票で、IOC(国際オリンピック委員会)がシカゴを落選させたことにアメリカの右派の評論家たちは大喜びしたと報じた。保守系のウイークリー・スタンダード誌の編集者が書いたあるウエブ記事によれば、結果が発表された時に「(編集部では)歓声が沸き起こった」という。

 私自身は、バラク・オバマ米大統領がオリンピック招致問題に関わるのは間違いだと思っていた。攻撃的な右派がそれをいいネタにしようとすると考えたからだ。ただし、五輪を開催することでシカゴが恩恵を享受するのは確かだし、アメリカ全体にとってもいい話のはずだ。ではなぜ右派は落選の知らせに歓声を上げたのか。

 答えは簡単だ。彼らにとって、アメリカという国や一般国民のことはどうでもいいのだ。彼らが気にしているのは特権的な立場、政治的な影響力、そして個人的な収入だ。それを左右するのは、民主党をこき下ろしたり、どんな手段を使ってでも共和党を復権させようという試みだ。今ならそれは、オバマをバッシングする口実を見つけること。IOCの決定がオバマの失点に見えるのなら、中西部で雇用が減ったり、アメリカの評判が下がることになってもかまわないのだ。

 辛口すぎる? では、これまでに右派の個人あるいは団体が、自らの未熟で利己的な行動について謝罪の意を表したことがあるだろうか。ウイークリー・スタンダード誌は、シカゴ落選が決まった際に歓声を上げた編集部の様子を伝えたウェブ記事を削除した。しかし、それは反省したからではなく、ただ恥ずかしいと思ったからだ。

 口の達者な保守派の人気司会者ラッシュ・リンボーも、公然とこう語った。「私の機嫌がよさそうなことを不快に思っている人たちがいる。確かに私は機嫌がいい。否定はしない。喜びでいっぱいなんだ」

 この先、保守派の論客ウィリアム・クリストルやリンボーが自分たちの体をアメリカ国旗で包み、いかに彼らがアメリカを愛しているか雄弁に語るところを見たり聞いたりした時には、思い出したほうがいい。アメリカが敗れて、彼らは「喜びでいっぱい」だったことを。

[米国東部時間2009年10月05日(月)08時52分更新]


Reprinted with permission from Stephen M. Walt's blog, 06/10/2009. © 2009 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口の中」を公開した女性、命を救ったものとは?
  • 3
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 4
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 5
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 8
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 8
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中