ゾンビ襲来!国際政治はいかに戦うか
世界ゾンビ機関(WZO)を設立か
例えば構造的現実主義者(もしくはネオリアリスト)ならこう考えるかもしれない。国によって(防衛の)能力は異なるから、ゾンビを容易に撃退できる国もあればそうでない国も出てくる、と。
だがジョージ・ロメロ監督のホラー映画『ランド・オブ・ザ・デッド』を見る限り、川や海でさえぎられていてもゾンビの侵入を阻止することはできない。つまり、撃退してもよそから入ってくるという困った事態になる。
もっともネオリアリストなら、人間の国とゾンビの国の間に本質的な差異はないと考えるはずだ。つまり世界政治の根本的な性質は変わらないということになる。「ゾンビとの戦い」を口実にうまく権力を掌握し、この危機に乗じようとする人間国家との勢力バランスをとるために、ゾンビ国家と一時的に手を結ぶといった戦術も可能かもしれない。
自由主義制度論者なら、ゾンビは古典的な外部性の問題を体現していると言うかもしれない。ゾンビ問題は国境を越え、あらゆる国に影響を及ぼすことだろう。つまり他国との政策協調から得られる利益は非常に大きいはずだ。
この「好機」をつかみ、世界ゾンビ機関(WZO)を迅速に立ち上げ、ゾンビをどう扱うべきかのルールを定めることもできるだろう。もっとも、WZOがうまく機能するかどうかは分からない。もし「ゾンビはすべて抹殺すべし」といったWZOの決定にゾンビが抗議したら、われわれは「1年半に限り、実効性のある規制なしに暴れ回ることをゾンビに認めるべきか」といったテーマについて協議することになりかねない。
アメリカは北米で独自の枠組み(North American F*** Zombies Agreement、略してNAFZA)を作り、地域内で問題を片付けようとするだろう。同様に、EU(欧州連合)はEU指令を使ってゾンビ問題に対処しようとするはずだ。
ゾンビは遺伝子組み換え(GM)生物の取り扱いを定めた国際的な枠組みのなかで扱われることになるかもしれない。EUはGM生物の国際的移動について定めたカルタヘナ議定書を「それ見たことか」と言わんばかりに振りかざすことだろう。
宇宙人とは同列に論じられない
社会構成主義を信奉する人なら、オハイオ州立大学のアレクサンダー・ウェント教授とミネソタ大学のレイモンド・デュバル教授の書いた『主権とUFO』という論文がゾンビ問題にも応用できると考えるかもしれない。
だがそれはお門違いかもしれない。この論文がまだ草稿だった時点で、私はウェントとデュバルにこの論考がゾンビや吸血鬼や幽霊やネッシーといったものにも一般化できるかと尋ねたところ、彼らの答えははっきり「ノー」だった。宇宙人は人類より優れた技術を持っているかもしれないが、古典的なSF作品に出てくるゾンビは人類を技術的に上回っているとはいえないからだ。