ロシアで露呈した「オバマ教」の限界
しかし、今やそれが通用しない場面が目につき始めた。ロシアはその1例だ。与えられるものは喜んで受け取るが、その交換条件は呑む気がないイランも同じだろう。
ベネズエラのウゴ・チャベス大統領も同様だ。彼は今年4月にトリニダード・トバゴで行われた米州首脳会談ではオバマに友好姿勢を見せたが、ホンジュラスでクーデターが起きると、例のごとくアメリカ批判を扇動した。当然ながら、北朝鮮にも通用しない。
「大統領が政策だ」というコンセプトは、以前からアメリカに好意を抱いていたり、若い人や選挙権を奪われた人には最大の効果を発揮するようだ。しかし手ごわい相手や、敵対的な人物にはまったく通用しない。
オバマはそうした相手に対しては、個人的な関係や、生まれついての魅力的な笑顔以上の何かが必要だということに気付き始めた。アメリカは外交戦略を根本から練り直し、長期的な交渉や脅し、おだてなど、基本的な戦術に立ち返るべきだ。
外交は国内向けの政治とはまったく別物だ。国内では機能しても、外国では上手くいかないことなどいくらでもある。
この現実に立ち向かうには、協力的で機能的な外交体系が求められる。そのためには、国務省が中心的な役割を果たす必要がある。さらに、国家安全保障会議(NSC)が政策の展開と実施の両面で重要な役割を担い、国家安全保障問題担当の大統領補佐官と国務長官が尊重されるべきだ。
大統領や行政府に外交問題が集中し過ぎないようにしなければならない。大統領が最も重要な役割を演じることは変わらない。しかし、大統領は陰でチームを指揮すべきだ。そのためには、オバマは自分が中心の大統領選モードから抜け出す必要がある。
脇に追いやられたヒラリーは裏方扱い
これは成功した企業の創業者にも言えることだ。会社がさらに成長し、安定した組織になるためには、創業者は優秀な補佐役とチームに権力を譲る必要がある。
今のオバマ政権はまったくそうなっていない。国務長官と国務省は明らかに脇に追いやられている。主要なメディアの応対は、大統領自身やジョー・バイデン副大統領が担当し、ヒラリー・クリントン国務長官はまるで裏方のようだ。
国家安全保障問題担当のジェームズ・ジョーンズ大統領補佐官は全力で職務に当たっているようだが、成果は上っていないとの認識が広まりつつある。彼の前任者の1人は、ジョーンズは任務を果たしていると思うかとの質問に、「その質問が出る時点で答えは明白だ」と答えた。
NSCで主導的な役割を果たしているのは、オバマの親友であるデニス・マクドナーやマーク・リッパートのようだ。
クリントンやジョーンズに権力がないわけではない。しかし、アメリカの国家安全保障に関するすべての権力をオバマが握っている。除け者にされた彼らは毎日働くふりをするしかなく、その役割は多くの前任者より小さい。こうした構造は、さらに多くの問題を生み出すことになるだろう。
オバマはもう「大統領選モード」から、「大統領モード」に切り替えるべきだ。そしてアメリカの複雑な外交政策を正しい方向に導くには、権限を持ったリーダーたちが率いる大きなチームが必要だと認識したほうがいい。
オバマ1人の力で世界を変えることはできないとアメリカ国民が考えたとしても、それで大統領のイメージが悪化することはない。確かに彼は前任者とは違う。だが、もはやそれだけでは不十分だ。
[米国東部時間2009年07月08日(水)11時25分更新]
Reprinted with permission from David Rothkopf's blog, 09/07/2009. © 2009 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.