何のために自慰をするのか...ここまで分かったマスターベーションの進化と必然
Why we’re searching for the evolutionary origins of masturbation – and the results so far
マスターベーションは自然な行為ではないと考える人間がいると知ったら、このメスのアカゲザルも驚くだろう Courtesy of Matilda Brindle
<生殖には役立たなそうなのに、メスもオスも、全年齢で、野生でも飼育下でも――。霊長類の研究から分かった「セルフプレジャー」驚きの理由>
spanking the monkey(猿を叩く)やpetting the poodle(プードルを撫でる)、 pulling the python(ニシキヘビを引っ張る)は、マスターベーションを遠回しに表現する際に使われる英語の慣用句だが、私たちが想像する以上に事実に近いものでもある。
動物界でもマスターベーション――セルフプレジャーとも呼ばれる――は一般的で、例えば犬は無意識のうちにぬいぐるみとセックスするし、イルカは頭のなくなった魚にペニスを突き刺したりする(本当である)。このように、動物のマスターベーションは多種多様なのだ。
私たち研究チームは新しい論文で、霊長類のマスターベーションは繁殖の可能性を高め、また性感染症を避けることにも役立つという仮説を検証した。
人間も属する霊長類に焦点を当てることにした理由は、彼らのマスターベーションの創造性にある。もしも動物界において、最も創造的な自慰行為を行う生物に賞が与えられるとすれば、霊長類が勝つだろう。
例えば、若いチンパンジーは噛んだ果物の欠片でオリジナルのセックストイを作り、インドネシアのスラウェシ島にいるクロザルのメスは、お尻を叩きながら指を膣に何度も挿入する。ある研究では、メスが最も妊娠しやすい時期に出る自然な腫れを再現したものをメスのチャクマヒヒに取り付けたところ、オスのチャクマヒヒは、その大きな人工のお尻を見ながらマスターベーションを行った。
マスターベーションがこれほど一般的な行動であるにもかかわらず、この分野の研究はほとんどない。そのため私は、小さい頃には予想もしていなかったキャリアとして、自分の博士課程をマスターベーションの進化の研究に費やすことにしたのだ。
マスターベーションは、進化論的には混乱をもたらすものと考えられる。なぜなら定義上は、生殖の相手がいらない行為であり、生存に役立つ筋書きとして考えるのは難しいからだ。
多くの人はこれを、異常で逸脱した行動や、性的興奮の副産物として見過ごしてきた。マスターベーションは時間とエネルギーの両面でコストのかかるものでもある。
霊長類全体のマスターベーションを概観する
私たちはまず、霊長類全体において「マスターベーションをする動物」をリストアップすることから始めた。
公開されている研究から見つけたすべての詳細情報を集め、足りない情報は霊長類がいる現場で働いたことがある同僚に、アンケートに協力してもらった。彼らは少し驚いた様子ではあったが、丁寧に回答を記入してくれた。
異なる種の動物たちが互いにどのように関連しているかを知ると、生存種のデータを比較してどのように生物の特徴が進化してきたかを推論できる。そのため私たちは、大きな家系図のような形で、異なる霊長類の種同士におけるマスターベーションの行為の有無について、新たなデータを用いて進化上での関係を描き出した。
いくつかの分析では、交尾のシステムや、その種の間での性感染症の蔓延度といった他の特性に関する情報を付け加えた。
その結果、すべての年齢層において、メスとオスの両方において、そして野生か飼育下かにかかわらず、マスターベーションが行われていることが分かった。
マスターベーションは霊長類内では古くから行われてきた行為であり、サルや類人猿の種が進化の途中で取り入れた習慣である可能性は低く、人間を含むすべてのサルや類人猿の祖先がマスターベーションを行っていたことを発見したのだ。
マスターベーションは繁殖の成功率を高められるか?
先行研究では、ウミイグアナの繁殖のシステムに巧妙な仕組みがあることが示されている。
ウミイグアナは、体の大きなオスがメスを独占し、小さなオスがメスと交尾しているのを見つけては、彼らを物理的に引き離してしまう。これを避けるために、小さなオスはマスターベーションを行い、精液をペニスの先端にある保存袋に溜めておく。そして次に交尾の機会があると、すぐさまその準備された精液を取り出すのだ。驚くべきことに、この方法によって小さなオスは受精の成功率を41%向上させている。
霊長類には、ウミイグアナのような精液を保存する袋はない。しかし、性交前に興奮を高めることは、依然として、序列の最上位のオスに性交を中断される可能性が高い低位のオスにとっては効果的な戦略である。なぜなら、性交前にオーガズムに近づくことで、交尾の機会があればすぐさま射精することができるからだ。
また、オスのマスターベーションは、精子の状態にも良い影響を及ぼす。つまり、射精をすることで、新たに新鮮で高品質な精子を補充して精子の状態を活発に保ち、これにより他のオスの精子に対して優位に立つことができる。
私たちの研究は、マスターベーションによってオスの繁殖の成功率が高まるという理論を裏付けたが、メスについては言及していない。オス同士での競争が激しい交尾システムは、マスターベーションと共に進化してきた。
先行研究では、メスの興奮が膣内をアルカリ性にして、より精子を受け入れやすい環境を作り出すことが示された。膣粘液は機能の低い精子をフィルターにかけ、品質が高い精液を子宮へと早く導く。オーガズムによる膣の収縮もまた、精子の子宮への道のりを手助けするのに役立つ。
性器の手入れとしてのマスターベーション
ケープアラゲジリスのオスは性交後にマスターベーションを行い、その行為はパートナーが多いほど盛んになる。パートナーが多くの性交を経験している場合、さらに多くのマスターベーションを行う。
オスの性交後のマスターベーションは、性器の洗浄の一形態だと考えられている。しかし、メスのマスターベーションは性感染症予防のために進化したとは考えにくい。なぜなら、興奮とともに膣内のpHが上昇してアルカリ性に近づくことは、精子だけでなく病原菌にも好ましい環境を与えることになるからだ。
私たちの研究は、オスにとってのマスターベーションが、性感染症のリスクの高まりとともに病原菌を避けるための戦略として進化し、特に性感染症のリスクが高い種においては、一度進化するとそのシステムが維持されることを裏付けている。
では、メスのマスターベーションは?
一見すると、私たちのデータは、メスのマスターベーションがオスに比べて少ないことを示しているように思える。実際、メスのマスターベーションの進化的機能を示す証拠は見つからなかった。
しかし私には、これらの結果が実態を反映しているとは思えない。メスの興奮やマスターベーションは、オスに比べてはるかに目立たないことがその理由の一部。だがこれは、科学界全般の傾向も反映しているのだ。つまり、メスの性行動や解剖学に関する情報が驚くほど不足しているのである。
これまではオスに対する研究が優先され、メスは後回しにされてきた。オスに関する研究は、科学界の努力の蓄積から恩恵を受けている。私たちはメスとオスの両方におけるマスターベーションの進化を探求しようとしたが、メスに関しては十分なデータを収集できず分析が難航した。
私たちの研究は、マスターベーションは多くの異なる種において行動範囲の正常な一部であることを強調する。それはメスにもオスにも、野生でも飼育下でも見られる行動だ。マスターベーションを「不自然だ」「間違っている」などと非難する人々は、霊長類の同胞たちから自然とは何かを学ぶべきだろう。
(翻訳:中川弘子)
Matilda Brindle, Associate Researcher, Department of Anthropology, UCL
This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.
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