「組み立て15分、コストはたった1万円」 能登半島地震で大活躍する災害対応の即席住宅開発への軌跡
完成した屋内用インスタントハウス。側面には子どもたちの絵が描かれている 写真提供:北川教授
<東日本大震災でのもどかしい経験から開発された、段ボール製の簡易住宅「インスタントハウス」。開発した北川啓介教授にその苦闘と成功までの歩みを聞いた>
能登半島地震で段ボール製の簡易住宅「インスタントハウス」が大活躍。組み立ては15分、原価は約1万円で、屋根と扉、窓もついた小さな「家」だ。
被災地の子供は「体育館におうちができた」と話しているという。インスタントハウスはどうやって生まれたのか。開発した名古屋工業大学の北川啓介教授に、フリーライターの川内イオさんが取材した――。
絵本に描かれた家のなかにいるような非現実感
元日に起きた大地震の影響で、およそ600人の被災者が身を寄せる石川県輪島市の市立輪島中学校。雪が積もるその中庭に、不思議な形の建物がたたずんでいた。
モンゴルの遊牧民が暮らす移動式住居「ゲル」のようにも見えるし、卵の卵白を泡立てたメレンゲのようにも見える。
この建物は、「インスタントハウス」という。考案したのは、名古屋工業大で教授を務める建築家、北川啓介さん。1月2日から被災地で被災者支援にあたっている彼が建てたものだ。
インスタントハウスは、空気を送り込むと風船のように膨らむよう設計されたテントシートの内部に、断熱材として一般的に使用されている発泡ウレタンを直接吹き付けている。
直径は5メートルあり、床面積は20平米、高さは4.3メートル。原価は15万円、北川さんひとりで施工しても、わずか1時間で完成する。
インスタントハウスに足を踏み入れた時、思わず「あっ」と声をあげてしまった。外はダウンジャケットが欠かせない気温なのに、内部は小型のファンヒーター一台で、上着を着ていると汗ばむほどに暖かい。
発泡ウレタンのなかにある無数の気泡が空気のバリアを作って、冷気を遮り、ヒーターの熱を留めているのだ。壁から天井まで全体が白くモコモコしているせいか、絵本に描かれた家のなかにいるような非現実感もある。