同僚が失敗するのが見られるなら、自分のボーナスが減ってもいいと考える人
印象的なセンテンスを対訳で読む
『悪意の科学――意地悪な行動はなぜ進化し社会を動かしているのか?』の原書と邦訳から、印象的なセンテンスを紹介する。
●Your brain has another, more dangerous trick to get around empathy. It makes unfair people seem less human. Dehumanisation, ceasing to see other people as fellow human beings, is potentially lethal. This helped 'colonists to exterminate indigenous peoples as if they were insects and whites to own blacks as if they were property'.
(脳にはさらにもう1つ、共感を回避するためのさらに危険な仕掛けがある。不公平な人々をより人間らしからぬように見せるのだ。他者を自分と同じ人間と見なすのをやめる非人間化は、甚大な被害をもたらす可能性がある。これは「入植者が先住民をまるで虫けらのように迫害し、白人が黒人を財産のように所有する」のを助長した)
――本来、人間には共感力が備わっているため、相手が痛みを感じることがわかると害を及ぼすことに抵抗を感じるはずだが、この「非人間化」という現象により、抵抗感がなくなるのだという。悪意がエスカレートして残酷な行為に至る痛ましい事件があとを絶たないが、こうした脳の特性も影響しているのかもしれない。
●When confronted with a threat to our freedom, the Braveheart Effect can trigger a spiteful response. We will pay a price to punish whoever or whatever has taken our liberty, in an attempt to regain our sense of freedom. It may be another person who has threatened our freedom. It could be a country. Or it may be the laws of nature and reason that have restricted us.
(自由への脅威に直面すると、ブレイブハート効果は悪意のある行動を引き起こす。自由を奪った相手や物事に対して、コストをかけて罰を与え、自由の感覚を取り戻そうとするのだ。自由を脅かすのは人間の場合もあれば、国家の場合も、行動を制限する自然の法則や理性の場合もある)
――「ブレイブハート効果」とは、映画『ブレイブハート』の主人公にちなんで著者がつくった言葉で「失われた、または脅かされた自由を取り戻すために湧き起こるモティベーション」を意味する。悪意は人間以外に向けられることもあり、社会を変える原動力にもなりえるのだ。
●The psychologist Kristin Laurin argues that because punishing others for unfair behaviour can be very costly to us, we invented gods to do this instead. Laurin notes that gods are 'most likely to emerge in large societies, or those with resources shortages, both of which have particularly high needs for regulating and enforcing cooperation'. But how do you get the powerful to believe in a deity that dislikes them?
As Laurin and colleagues point out, the major religions have ways of making you believe. They can play on biases in human psychology, such as our tendency to detect an intelligence behind events caused by chance.
(心理学者のクリスティン・ラウリンは、不公平な行動をした他者を罰するのは高いコストがかかるため、人類は自分たちの代わりに罰を与えてくれる神を生み出したのだと述べている。ラウリンいわく、神は「大規模な社会または資源の乏しい社会に見られることが多く、どちらの社会も協力を管理し、強化する必要性が特に高い」。では、神に嫌われている権力者にも神を信じさせるにはどうしたらよいだろう?
ラウリンらが指摘しているように、大規模な宗教団体はいずれも信者を信じさせる手段を持っている。たとえば偶然の出来事の裏に霊的存在があると感じる傾向など、人間の心理的バイアスを利用することもできるだろう)
―― 一方、皮肉なことに、アルカイダとつながりのある過激派組織の支持者を対象にした研究によると、神聖な価値を守るために命をかけることについて考えるときには、費用対効果を分析する脳部位の活動が低下し、悪意のある行動をとりやすくなるという。
ソーシャルメディアの発達などにより、悪意のある行動にかかるコストは激減した。また、社会の格差と分断は広がる一方だ。本書はこうした現状の根底にある悪意の問題を読み解く上でも、ひとつの手がかりとなるだろう。悪意そのものがなくなることはなさそうだが、悪意を理解することで、嫌がらせに対する耐性を少しでも高められれば幸いだ。
ちなみに、著者いわく「悪意は人間の性質の重要な一部だ」ということなので、冒頭の質問にすべて当てはまる人もどうか気にしないでほしい。悪意も使い方によっては大いに役立つのだから。
『悪意の科学――意地悪な行動はなぜ進化し社会を動かしているのか?』
〈目次〉
はじめに・・人間は4つの顔をもつ
第1章・・たとえ損しても意地悪をしたくなる
第2章・・支配に抗する悪意
第3章・・他者を支配するための悪意
第4章・・悪意と罰が進化したわけ
第5章・・理性に逆らっても自由でありたい
第6章・・悪意は政治を動かす
第7章・・神聖な価値と悪意
おわりに・・悪意をコントロールする
トランネット
出版翻訳専門の翻訳会社。2000年設立。年間150~200タイトルの書籍を翻訳する。多くの国内出版社の協力のもと、翻訳者に広く出版翻訳のチャンスを提供するための出版翻訳オーディションを開催。出版社・編集者には、海外出版社・エージェントとのネットワークを活かした翻訳出版企画、および実力ある翻訳者を紹介する。近年は日本の書籍を海外で出版するためのサポートサービスにも力を入れている。
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