3Dプリンター製の自動小銃が米社会に及ぼす脅威
EASY TO MAKE 3D-PRINTED GUNS
ジェイコブはFGC9の生みの親として、英ジャーナリストのジェーク・ハンラハンの短編ドキュメンタリー『プラスチック・ディフェンス』でも紹介された。一方のアイバンはFGC9の銃身と弾倉をデザインした男で、過去にワイアード誌やニュー・リパブリック誌のインタビューを受けている。
彼らは有力SNSのレディットでも手作り銃に関するスレッドに参加しているが、たびたび運営側から問題視されてきた。アイバンは何度も利用禁止処分を受けたが、そのたびにプロフィールを作り直して対応してきた。一昨年にはツイッターのアカウントも削除されたが、そこは慣れたもの。別のハンドル名を使って、今は堂々と復帰している。
筆者は独自のルートでアイバンの身元を突き止め、電話で連絡を取ることができた。ただし自分と家族の安全を守りたいという本人の希望により、本稿では仮名のアイバンで通すことにしたい。
現在23歳のアイバンは、コンピューターサイエンスの学位を取得して2020年に大学を卒業。イリノイ州南部で両親と暮らしている。実家は一見どこにでもある郊外住宅だが、裏には広い野原と森があって、そこに彼の「射撃練習場」があり、その一角に自家製銃の設計とプリント専用の小屋がある。
アメリカ中西部だから、実家では銃が身近な存在だった。アイバンは高校の授業で3Dプリントの技術と出合った。初めて3Dプリンターを買ったときは銃を作ろうなどと考えておらず、古い自動車の内装をきれいにするのが目的だったという。
プリンターで銃を作り始めたのは、その数年後のこと。きっかけはAR15のロアレシーバーを「プリントした」人々についてのオンライン記事を読んだことだった。5回ほどの試作を経て完成した銃は2000発以上の射撃に耐えた。これで自信をつけた彼は、以後3Dプリント銃の製造にのめり込んだ。
「誰でも入手可能」を目標に
彼は18年の「ソーシャルメディアブーム」なるもの(3Dプリント銃が一部の人だけでなくネット上で大勢の支持者を獲得するまでに成長したこと)に積極的に参加した。アイバンが初めてジェイコブと連絡を取ったのは、レディットとツイッター上にある自家製銃設計者の集まりの場だった。ジェイコブはアイバンに設計ソフトの使い方を教えてくれと頼み、そこからFGC9が生まれた。その後2人は何度も設計で協力しているが、いまだに互いの身元を知らないという。
ディターレンス・ディスペンストは1月半ばまで、暗号化チャットアプリの「キーベース」上で活動していた。グループのメンバーは2万7000人近くに増えていたが、アイバンによれば、実際に活動に参加していたのは数千人程度だ。