最新記事

新型コロナウイルス

コロナ患者の3人に1人は、2週間で治らない

How many people get ‘long COVID’ – and who is most at risk?

2021年3月17日(水)16時45分
ステファニー・ラバーン(米コロラド州立大学助教)
新型コロナウイルス

KOVOP58/ISTOCK

<各国で進む新型コロナウイルスの研究。時には回復までに何カ月もかかる「長期コロナ感染症」が目立っている>

私は感染症専門の医師で、新型コロナウイルスの免疫について研究している。数カ月前、ある若い男性が私のクリニックを訪れた。

男性は深刻な疲労感と体力の衰えを訴えた。その3カ月前に新型コロナの検査を受けて陽性だったというが、軽い症状が数日続くだけで回復するタイプの患者だと思われた。

しかし彼はまだ新型コロナの症状に悩んでおり、趣味のマウンテンバイクを以前のように乗り回すこともできないという。

アメリカでは多くの人が、新型コロナに感染した後に回復している。たいていは症状が出ても、2週間以内に消える。ところが一部には何カ月も続く患者がいる。

そうしたケースは「ロングホーラー(長期患者)」と呼ばれている。過去数カ月間の多くの研究で、症状が2週間では消えない患者が3人に1人程度いることが分かっている。

多くの長期患者の場合には、発症直後に経験した症状が続く。ブレインフォグ(脳の霧)と呼ばれる意識障害、疲労感、呼吸困難、頭痛、運動困難、鬱、睡眠障害、味覚や嗅覚の喪失などだ。これまで私が診た範囲では、症状は発症初期よりも軽いようだ。

ほかにも脱毛から頻脈、不安感に至るまで多くのケースが報告されている。症状は続いているのに、ウイルスが検出されないことも多い。

magSR20210317allaboutlongcovid-2.jpg

ある患者は自転車を乗り回せるようになるまで4カ月かかった GELYNGFJELL/ISTOCK

入院にまで至った患者は、症状が長期にわたって続く可能性が最も高い。昨年7月に発表されたイタリアの研究では、元入院患者143人を調べたところ、退院から60日たっても症状が残っていた人が87%いた。

今年1月に発表された研究では、新型コロナの「震源地」といわれた中国の武漢で入院した患者の76%に、発症から半年がたっても症状が残っていた。

半年後にも呼吸の問題を訴えている患者の肺をCTスキャンで調べたところ、多くの人にいわゆる「すりガラス状陰影」が見つかった。新型コロナが引き起こしたウイルス性肺炎の炎症を示している可能性が高い。

他の研究でも同様の問題が見つかっている。ある研究では、退院から3カ月たっているのに、進行中のウイルス性肺炎にかかっていた患者たちがいた。

ドイツの患者100人を対象とした別の研究では、感染から2~3カ月後にも心臓の炎症を起こしていた患者が60%に及んでいた。患者は比較的若く健康で、平均年齢は49歳。多くは入院の必要がなかった。

発症当時は軽症だった患者でも、症状が長引くことがある。米疾病対策センター(CDC)の最近の調査によると、入院の必要がなかった患者のうち35%が発症から2~3週間たっても以前の健康状態に戻っていない。

高齢者や基礎疾患のある人たちだけでなく、もともと健康だった18~34歳の患者の20%でも症状が続いていた。

対照的にインフルエンザの場合では、発症から2週間たっても症状が残る患者は1割程度だ。

症状がどれだけ続くのか、なぜ長引くのかは今のところ分かっていない。まだ学術誌に発表されていない最新の研究によると、多くの長期患者はブレインフォグや痛み、重度の疲労感のため元どおりの生活が送れない。

発症前はほぼ毎日マウンテンバイクで山を走り回っていた私の患者の場合、再び同じように活動するまでに4カ月かかった。

新型コロナのもたらす苦痛は、当初の予想を超えている。症状が長引く要因を突き止め、医療の力で患者を救う方法を見つけるために、いっそう力を入れる必要がある。

The Conversation

Stephanie LaVergne, Research Scientist, Colorado State University

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

(3月16日発売の本誌「日本人がまだ知らない コロナ後遺症」特集では、呼吸器系感染症とばかり思われていた新型コロナが脳に与える深刻なダメージから、コロナが治った後に赤ちゃんを襲う「MIS-C」まで、最新研究をレポートする)

20250225issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年2月25日号(2月18日発売)は「ウクライナが停戦する日」特集。プーチンとゼレンスキーがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争は本当に終わるのか

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中