最新記事

コロナストレス 長期化への処方箋

ズーム疲れ、なぜ? 脳に負荷、面接やセミナーにも悪影響

ZOOM FATIGUE

2020年8月18日(火)17時30分
アンドレ・スパイサー(ロンドン大学シティー校キャス・ビジネススクール教授)

ILLUSTRATION BY SORBETTI-ISTOCK

<在宅勤務のビデオ会議は、便利だが問題も多い。疲労やむなしさ、自分の姿を目にすることのストレスも募る。どうすれば「ズーム疲れ」を減らせるのか。本誌「コロナストレス 長期化への処方箋」特集より>

コロナ禍のさなか、ビデオ通話に費やされる時間が急速に増えている。以前はビジネスの会議だけに使われるものだったが、今では社交や礼拝、デートのツールにもなった。
20200825issue_cover200.jpg
ズーム(Zoom)のようなビデオ会議システムが便利なことは間違いない。しかし、長時間のビデオ通話に問題が潜んでいることも確かだ。他人との交流をビデオ通話に頼れば、疲労やむなしさを感じる恐れがある。常に画面を通じて人と接することで、人間関係のリアルさが損なわれる可能性もある。こうした心理面への影響は「ズーム疲れ」と呼ばれ、筆者の専門である組織行動論の分野でも議論を呼び始めた。

画面を通じて人と対話すると、私たちの脳には普段よりも負荷が掛かる。部屋の匂いや、目の片隅に入る細かな情報など、生の会話だったら入手できる状況理解のためのヒントがほとんど得られないからだ。

補助的な情報がないと、脳は状況を理解するために余計に働く。これがマイナスの結果につながりかねない。就職面接の分析によれば、ビデオ通話で面接を受けた人は、じかに面接を受けた場合より評価が低くなる傾向があった。

状況の理解に余計な努力が必要になると、判断のための「近道」を探そうとすることが増え、悪影響につながる可能性もある。ある調査によると、医師を対象にしたセミナーにじかに出席した人たちは発表者の主張の内容に注目していたが、ビデオ通話を通じて参加した人は発表者が好感を持てる人物かどうかに注意を向けがちだった。

通信のトラブルも判断に影響を及ぼす。相手の反応が1秒遅れただけでも、信頼感が低くなりかねない。ある実験では、ビデオ通話の質が悪いと、人はコミュニケーションに非常に慎重になることが分かった。

自分の姿を目にするストレス

感情面での疲れももたらす。ある研究によれば、国連やEUでリモートの仕事をしている通訳者は、その場に自分が加わっていないような疎外感を抱いていた。ビデオ通話でカウンセリングを行ったセラピストは、クライアントとの「結び付きが損なわれた」と報告している。

学生と教師のやりとりの研究によれば、もともと不安を感じやすい学生はビデオ通話による口頭試験だとじかに対面する試験より不安が増していた。その結果、試験の成績は悪くなりがちで、特に自分の顔が画面で見えると学生の不安は高まった。

ビデオ通話で厄介なのは、自分の姿が常に目に入ってしまうこと。それが気になって、相手とのやりとりに集中できなくなる恐れもある。気にしてはいけないと思えば、さらにストレスが増しかねない。

ビデオ通話が増えるなかで、自分の存在意義を求めるケースも出てきている。研究によればリモートワークをしている人は、組織の中心から離れて働いていることで、仲間外れにされたような感覚を経験しがちだ。自分の存在を認めてもらおうと、普段ならしないようなアピールを上司に対してすることもある。

では、どうすればビデオ通話による疲労を減らせるのだろう。比較的簡単な方法がいくつかある。まずビデオ通話中は他の仕事を並行してするのを避け、画面に集中することだ。

通話の合間に休息を取り、画面から離れて頭の疲れを回復させる時間をつくるのもいい。ビデオ通話中に自分の映像を隠せば、他の人の発言に集中しやすくなるかもしれない。

通信手段はビデオ通話だけではない。メールや電話のほうが役に立つ状況もある。ある実験では、音声だけの通話のほうがビデオ通話よりも一部の情報が正確に伝わった。

コミュニケーションを全く取らないことが最善の場合もある。最近の実験では、互いに話をせずにパズルを解いたチームのほうが、話をしながら解いたチームよりも概して好成績を上げていた。時には沈黙が一番なのかもしれない。

The Conversation

Andre Spicer, Professor of Organisational Behaviour, Cass Business School, City, University of London

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

<2020年8月25日号「コロナストレス 長期化への処方箋」特集より>

【関連記事】仕事をする時間、孤独感の解消、仕事用スペース...在宅勤務5つのアドバイス
【関連記事】リモートワーク「先進国」アメリカからの最新報告──このまま普及か、オフィスに戻るか

20200825issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年8月25日号(8月18日発売)は「コロナストレス 長期化への処方箋」特集。仕事・育児・学習・睡眠......。コロナ禍の長期化で拡大するメンタルヘルス危機。世界と日本の処方箋は? 日本独自のコロナ鬱も取り上げる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日経平均は大幅続落、米金利上昇や中東情勢警戒 「過

ビジネス

午後3時のドルは154円前半で高止まり、34年ぶり

ビジネス

台湾TSMC、1─3月純利益は5%増か AI半導体

ビジネス

第1四半期の中国GDPは予想上回る、3月指標は需要
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無能の専門家」の面々

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 5

    キャサリン妃は最高のお手本...すでに「完璧なカーテ…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    金価格、今年2倍超に高騰か──スイスの著名ストラテジ…

  • 8

    イスラエル国民、初のイラン直接攻撃に動揺 戦火拡…

  • 9

    甲羅を背負ってるみたい...ロシア軍「カメ型」戦車が…

  • 10

    中国の「過剰生産」よりも「貯蓄志向」のほうが問題.…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 3

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入、強烈な爆発で「木端微塵」に...ウクライナが映像公開

  • 4

    NewJeans、ILLIT、LE SSERAFIM...... K-POPガールズグ…

  • 5

    ドイツ空軍ユーロファイター、緊迫のバルト海でロシ…

  • 6

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 7

    ロシアの隣りの強権国家までがロシア離れ、「ウクラ…

  • 8

    金価格、今年2倍超に高騰か──スイスの著名ストラテジ…

  • 9

    ドネツク州でロシアが過去最大の「戦車攻撃」を実施…

  • 10

    「もしカップメンだけで生活したら...」生物学者と料…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    巨匠コンビによる「戦争観が古すぎる」ドラマ『マス…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中