最新記事

リモートワークの理想と現実

音楽は仕事の集中力アップに役立つ? 心理学者が「最適な組み合わせ」教えます

DOES MUSIC HELP YOU FOCUS?

2020年5月12日(火)17時40分
ジョン・アイエロ(ラトガーズ大学心理学教授)、マヌエル・ゴンザレス(ニューヨーク市立大学バルーク・カレッジ博士課程)

音楽を聴きながら作業すると集中できるというが H. ARMSTRONG ROBERTS-CLASSICSTOCK/GETTY IMAGES

<どんな作業のときにどんな楽曲を聴けば、ノリノリで仕事がはかどるのか。リモートワーク中の人たちのために、心理学者が実験を行った。本誌「リモートワークの理想と現実」特集より>

巣ごもり生活が長引き、子供がいる家庭では自宅がオフィス兼学校兼子供の遊び場になっているはず。そんな環境では何時間も集中して仕事に取り組むのはとても無理だ。
20200519issue_cover200.jpg
音楽を聴きながら仕事をしたらどうだろう?

音楽が大好きな私たちは本職の心理学の手法でこの問いに挑んでみた。

音楽がスポーツや数学などのパフォーマンスにどう影響するかを調べた先行研究は多くある。だがこうした研究の多くは特定の能力に的を絞ったものだ。私たちは多くの人の参考になるよう、大まかな設定で音楽の効果を調べることにした。

実験では、被験者に2つのタイプの課題を与えた。1つは簡単な課題で、単語のリストを見てアルファベットのaを含む単語にバツ印を付けるといったもの。もう1つはより難度の高い課題で、単語のペアをいくつか覚え、片方の単語を見て対になる単語を思い出す、などだ。

被験者の一部は音楽を聴かずに、これらの課題に取り組んだ。その他の人たちは音量が大きいか小さい楽器演奏、または単純か複雑な音楽を聴きながら課題をこなした。ここで言う単純な音楽とは、楽器は1つか2つで、メロディーが頻繁に変わらず、テンポもおおむねゆったりしたもの。複雑な音楽とは、多様な楽器で編成され、メロディーが頻繁に変わり、テンポがおおむね速いものだ。

知的リソースをどう使うか

この実験で興味深い結果が得られた。簡単な課題では、音楽なしのグループと単純な音楽を聴いたグループの成績はほぼ同じで、複雑な音楽を聴きながらやったグループの成績が最も良かった。逆により難度が高い課題では、音量の大小や旋律の複雑さにかかわらず、音楽を聴きながらやったグループのほうが、音楽なしのグループより成績が悪かった。

この結果から何が分かるだろう。

私たちの解釈はこうだ。音楽を聴くことと課題をやることはいずれも知的リソース(資源)を使う。知的リソースが十分に使われていないと、退屈して注意が散漫になるが、逆に知的リソースを超える負荷がかかった場合も疲弊して集中が途切れる。

簡単な課題はあまり知的リソースを使わずにこなせるので気が散りがちだ。その場合は音楽を聴けば適度な刺激が与えられ、単調な作業でも飽きずに続けられる。一方、難しい課題ではそれだけで知的リソースを使うので、そこに音楽が加われば過大な負担になる。

つまり課題の難易度と音楽のタイプの「最適な組み合わせ」があって、知的リソースが最適に使われたときに最も効率が上がると考えられる。加えて、音楽の効果には個人差もありそうだ。

音や周囲の事物など外部の刺激に注意を向ける度合いは人によって違う。私たちの実験では、外部刺激に注意を向けがちな人は、簡単な課題に取り組む場合でも複雑な音楽を聴くと成績が悪くなった。

まとめれば、比較的単純な反復作業をするときは、音楽を聴けば効率アップが期待できる。だが知的リソースを目いっぱい使う仕事をやるときは音楽なしのほうがよさそうだ。

蛇足ながら、あなたがノリノリで仕事をこなせる音楽が、周りもノリノリにするとは限らない。音楽を聴くならイヤホンを使おう。

<2020年5月19日号「リモートワークの理想と現実」特集より>

The Conversation

Manuel F. Gonzalez, PhD Candidate in Industrial-Organizational Psychology, Baruch College, CUNY and John R. Aiello, Professor of Psychology, Rutgers University

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

【参考記事】仕事をする時間、孤独感の解消、仕事用スペース...在宅勤務5つのアドバイス
【参考記事】Zoom、Slack、Houseparty 危険だらけの在宅勤務向けアプリ

20050519issue_cover_150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年5月19日号(5月12日発売)は「リモートワークの理想と現実」特集。快適性・安全性・効率性を高める方法は? 新型コロナで実現した「理想の働き方」はこのまま一気に普及するのか? 在宅勤務「先進国」アメリカからの最新報告。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米国務長官、4月2─4日にブリュッセル訪問 NAT

ワールド

トランプ氏「フーシ派攻撃継続」、航行の脅威でなくな

ワールド

日中韓、米関税への共同対応で合意 中国国営メディア

ワールド

米を不公平に扱った国、関税を予期すべき=ホワイトハ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中