最新記事

新型肺炎

新型コロナウイルス、感染ピークは過ぎた? 情報不足で予測モデル頼りにならず

2020年2月8日(土)11時45分

中国から拡大した新型コロナウイルスについて今、世界中の医療、政策、経済専門家が協力し、ピークを予想しようと試みている。写真は1月27日、湖南省長沙の空港で撮影(2020年 ロイター/Thomas Peter)

ウイルス感染がいつ「ピーク」を越すかについての予想は、外れるものと相場が決まっている。だからといって、予想することが無意味なわけではない。

中国から拡大した新型コロナウイルスについて今、世界中の医療、政策、経済専門家が協力し、ピークを予想しようと試みている。ピークとは、日々の新たな感染者数が継続的に減少し始める時期だ。しかしデータに欠陥が多すぎるため、信頼に足る予想を出すのは難しいと、関係者らはくぎを刺している。

「いつピークを迎えるという話がでても耳を貸す価値はない」と語るのは米ミネソタ大の感染症専門家、マイケル・オスターホルム氏。

英オックスフォード大の数理疫学専門家、ロビン・トンプソン氏も同意する。同氏は新型コロナウイルスの感染拡大についての予想を公表し、積極的に更新しているが「分かっていないことがあまりにも多い現在のような状況では、いつピークを迎えるかについて何らかの精度を持って予想するのは不可能だと言って差し支えない」という。

実際、中国政府系英字紙チャイナ・デーリーが今週報じたところでは、中国工程院の専門家で感染拡大抑止に取り組むチームの一員のZhong Nanshan氏は1月28日に出した「7―10日以内にピークを迎える」という予想を、2月2日に「10―14日以内に迎える」と変更した。変更の理由は明らかにしていない。

予測モデル

政策立案者から病院建設関係者、航空会社の運航計画担当者にいたるまで、すべての関係者にとって、戦略的な計画を立てるには感染拡大の予測モデルを作り、それに手を加えていくことが決定的に重要になる。

感染症の予測モデルに盛り込まれ得る基礎的要因としては、把握できている感染者数、経過時間、人の行き来の頻度、人同士の接触頻度、感染率、隔離や検査などの抑制策などがある。

例えばオックスフォード大のトンプソン氏のモデルでは、中国以外の国・地域で感染が発覚した際、継続的にウイルスが感染するリスクを予想する。

同氏のモデルでは、いくつもの重要な前提条件を設定。具体的には、中国国外に持ち出されたウイルスの感染症例が中国国内のものと類似しているとか、新型コロナウイルスの感染力が重症急性呼吸器症候群(SARS)のウイルスと同程度である、といったこと。その上で、監視態勢のレベルに応じ、人から人へ継続的に感染する確率を予測する。監視態勢とは感染の発見、症状の診断、報告などで、質が低い、効果的でない監視から集中的な監視までレベル分けされる。

「現在の感染拡大が世界規模の伝染病に発展するのを食い止めるためには、世界中の国・地域による監視努力が重要」との考えに基づく予測モデルだとトンプソン氏は説明する。

米疾病管理予防センター(CDC)の伝染病学者、ジョー・ブレシー氏は「公衆衛生の責任者であるわれわれにとって、これらはどれも欲しくてたまらない情報だ」と言う。

英ウォーウィック大で感染拡大を予測する数理モデルを開発しているマイク・ティルデスリー氏のモットーは「すべてのモデルに間違いはある。しかし中には役に立つものもある」だ。

モデルがどの程度役立つかは、究極的にはそれを使う機関や部局の対応にかかっている。

「本当に大規模な感染の影響を和らげたいなら、ピークを迎えるとみられるまでにかかる平均的な時間に目を向けるだけでなく、最悪のシナリオも視野に入れることが重要だ」とティルデスリー氏は語った。

Kate Kelland Julie Steenhuysen

[ロンドン/シカゴ ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます



20200211issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年2月11日号(2月4日発売)は「私たちが日本の●●を好きな理由【韓国人編】」特集。歌人・タレント/そば職人/DJ/デザイナー/鉄道マニア......。日本のカルチャーに惚れ込んだ韓国人たちの知られざる物語から、日本と韓国を見つめ直す。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中