最新記事

危ないIoT

IoT機器メーカーは消費者のセキュリティーを軽視している

GUESS WHO'S LISTENING?

2019年11月6日(水)11時05分
アダム・ピョーレ

ILLUSTRATION BY BRITT SPENCER, PHOTOGRAPH BY YAGI STUDIO/GETTY IMAGES

<おもちゃもドローンも、バイブレーターも――。スマート家電・スマート機器は世界に約266億台存在するが、企業はユーザーを守るためにはほとんど何もしていない。本誌「危ないIoT」特集より>

2009年、Wi-Fi機能を搭載したサーモスタットや玄関カメラなど、「モノのインターネット(IoT)」関連の機器が普及し始めた頃、コンピューター科学者のアン・ツォイは、実世界で用いられている機器の中に「あっさり侵入できる」ものがどれくらいあるか調べてみた。
20191112issue_cover150.jpg
具体的には、ユーザー名とパスワードが工場出荷時のまま変更されていない機器をウェブ上で探した。出荷時のユーザー名とパスワードはマニュアルに記されているものがほとんどなので、プログラムを作ってウェブ上で検索すれば、侵入可能な機器を簡単に洗い出せる。

そのような製品は、144カ国で50万台以上見つかった。ツォイはこの結果を基に、インターネットにつながっている機器全体の約13%は、いわば玄関に鍵が掛かっていない家のような状態にあるという推計を導き出した。

それから10年。ハッキングを受けやすい機器の数は劇的に増えた。その背景には、家電などさまざまな製品に小型のコンピューターが組み込まれるようになり、周囲の世界とワイヤレスでコミュニケーションできるようになったという事情がある。そうした機器は「スマート家電」「スマート機器」などと呼ばれる。

音声認識機器やスマートフォンに口頭で指示するだけで暖房をつけたり照明を消したりすることも、ベーグルが焼けたらトースターからのメッセージをテレビ画面に表示することも、IoTで可能になる。

おもちゃもドローンも危ない

IoTは私たちの生活を便利にする画期的なテクノロジーだが、好ましい側面ばかりではない。

家電やセンサーなど、身の回りのさまざまな機器がつながるIoTは、もっぱらコンピューター同士が結び付くだけだった旧来のインターネットとは根本的な違いがある。バーチャルな世界に限定されている旧来のインターネットと異なり、リアルな世界と直接結び付いているのだ。

では、スマート家電や監視カメラに搭載されたコンピューターが乗っ取られたら、一体どうなるのか。IoTのセキュリティーは果たして信頼できるのか。

2つ目の問いに対して、サイバーセキュリティー専門家の見解はほぼ一致している。「ひとことで言えば、現時点での答えはノーだ」と、米半導体設計会社ラムバスのシニアディレクター(プロダクトマネジメント担当)を務めるベン・レバインは述べている。

旧来のインターネットは、主に情報テクノロジーやコンピューター科学の専門知識を持った技術者たちが築いてきた。それに対し、IoT製品を作っているメーカーの多くは、ハッキングを跳ね返すシステムを築くために不可欠な専門性を持っていない。そもそも、そうしたシステムの必要性を認識していないケースも多い。結果、至る所に落とし穴が存在しているように見える。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 

ビジネス

米地銀リパブリック・ファーストが公的管理下に、同業

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、22年2月以来の低水準
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ」「ゲーム」「へのへのもへじ」

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    走行中なのに運転手を殴打、バスは建物に衝突...衝撃…

  • 7

    ロシア黒海艦隊「最古の艦艇」がウクライナ軍による…

  • 8

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 9

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中