最新記事

ニューロフィードバック革命:脳を変える

暴力・性的暴行の衝動は電気刺激で抑えられる──研究

2019年3月13日(水)12時10分
アリストス・ジョージャウ

IGORSTEVANOVIC/SHUTTERSTOCK

<遺伝学などから、暴力衝動の「個人差の半分は生物学的要因による」という可能性が示されている。そんななか、暴力の欲求を抑える技術を開発して犯罪減少に役立てる研究が進んでいる>

※3月19日号(3月12日発売)は「ニューロフィードバック革命:脳を変える」特集。電気刺激を加えることで鬱(うつ)やADHDを治し、運動・学習能力を高める――。そんな「脳の訓練法」が実は存在する。暴力衝動の抑制や摂食障害の治療などにつながりそうな、最新のニューロ研究も紹介。

◇ ◇ ◇

暴力を振るいたいという欲求を抑える技術を開発して、犯罪減少に役立てる――SFの世界の話にも聞こえるが、実現の可能性がないわけではなさそうだ。

アメリカとシンガポールの研究者によるチームが暴力行為を働く衝動を半分以下に抑制できる方法を発見した。

昨年7月に学術誌ジャーナル・オブ・ニューロサイエンスに発表された論文によれば、その方法とは、複雑な思考や行動をつかさどる脳の前頭前野を、経頭蓋直流電気刺激(tDCS)と呼ばれる技術を使って物理的に刺激するというものだ。わずか20分の刺激で衝動を抑える顕著な効果が認められ、同時に身体的・性的な暴行は道徳的に誤りだという認識を高める効果も見られた。

研究チームは、健康な成人の被験者81人を2つのグループに分けた。一方のグループにはtDCSを20分間にわたって与え、もう一方には脳の活動に何の変化も及ぼさない弱い電流を30秒流した。電気刺激を与えたかどうかは、どちらのグループにも知らせなかった。

tDCSは背外側前頭前野という部分に絞って与えられた。過去の研究では、反社会的な行動をする人はこの部分に欠損がある場合が少なくない(だが、そうした欠損が反社会的行動を引き起こすのか、逆に反社会的行動が脳に変化をもたらすのかは解明されていない)。

被験者がtDCSまたは弱電流を受け終えると、研究者は身体的暴行と性的暴行に関する2つのシナリオを提示。自分がシナリオと同じ状況に置かれた場合に暴力を振るう可能性と、シナリオに描かれた状況が道徳的にどれほど好ましくないかを、それぞれ10段階で評価させた。

その結果、tDCSを受けたグループは弱電流のグループに比べて、身体的暴行の衝動が47%、性的暴行の衝動が70%抑制されていた。さらに、前者のグループでは暴力行為が道徳的に誤りだと認識する人の割合も上昇していた。

この研究だけで全てが解明できたわけではないが、興味深い結果ではある。わりと単純な方法が暴力行為の抑制に効果的である可能性を示しているからだ。

「犯罪の原因を突き止めようとするときには、社会的要因に焦点が当てられることが多い」と、研究に関わったペンシルベニア大学医学大学院の心理学者エイドリアン・レインは言う。「それも重要だが、脳の画像診断や遺伝学の研究では、暴力への衝動の個人差の半分は生物学的要因によるものである可能性が示されている」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中