最新記事
保護犬

「安楽死リスト」の犬たちを救うため...家族に別れを告げた女性の「終わりなき旅」

My Life as a Dog Savior

2024年6月27日(木)14時15分
マレーナ・ピアセンザ(米カリフォルニア州サンタバーバラ郡動物サービスの動物福祉専門家)
マレーナ・ピアセンザと保護犬

動物たちを救うことに人生をささげると決心したピアセンザ COURTESY OF MARLENA PIACENZA

<攻撃的な行動や病気のために里親に出せない保護犬を待つのは安楽死。リハビリで犬たちを「幸せで健康なペット」に変えるのが彼女の仕事だ>

荷物をまとめ、友人や家族に別れを告げ、保護犬を救う旅に出る──それは簡単な決断ではなかった。

もともと動物好きだったが、私の情熱に火を付けたのは初めてシェルター(一時保護施設)を訪れたときの体験だった。何の罪もない動物たちを助けるため、もっと何かできるはずだという思いが頭にこびりついて離れなくなった。


可能な限り多くの動物を救うことに人生をささげると決心した私は、何時間も車を走らせ、アメリカ横断の旅に出た。履歴書をいくつものシェルターに送り、そのうちの1つに空きがあることを願った。

あるシェルターから面接に来るようにとの電話をもらったときは本当にうれしかった。そこからまた旅が始まった。

ある日、職場に入ると犬小屋が騒がしい。気になって行ってみると、怯えたジャーマン・シェパードが1匹。首にはチョークチェーン(訓練用の首輪)が巻き付いていた。

この犬は体重が落ち、首にワイヤが食い込み、長い鎖がチョークチェーンにつながった状態で保護された。ワイヤは切断できたが、チョークチェーンは外せなかった。

彼はほえ、突進し、近づくとかみつくので、里親に出すのは困難だった。その攻撃的な行動のため、緊急譲渡リスト(短期間で適切な譲渡先が見つからなければ安楽死を検討する)に登録されていた。

私がゆっくりとケージに近づくと、犬はパニックになって目を見開き、突進してうなり声を上げた。トラウマ(心の傷)を負っていることは明らかだった。私は何時間もケージのそばに座り、優しく話しかけ、おやつを与えた。

彼は少しずつリラックスし始め、緊張がほぐれていくのがしぐさからも分かった。最後はケージから出て一緒に庭に行くことができた。小さな勝利だが、私にとっては大きな意味があった。

それから数週間、私は暇さえあればこの犬と一緒に過ごし、信頼と愛情の絆を築いた。日を追うごとに、彼の目に宿る恐怖は薄れ、希望と喜びの輝きに変わっていった。

安楽死の危機を脱して

まだ緊急譲渡リストに載っていたが、外に連れ出せば状況は好転すると、私は考えた。

彼はシェルターで初めて会った地元の学生とハイキングに行くことになった。初対面の相手との外出はこれが初めてだったが、彼は愛情あふれる態度で学生を出迎えた。

彼が新しい「友達」と出発するのを見送りながら、私は誇りと感謝の気持ちを感じた。この犬は信頼と愛の世界に戻る道を見つけたのだ。彼は緊急譲渡リストから削除された。安楽死の心配はなくなり、里親に出せるようになったということだ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

午後3時のドルは154円後半、欧州PMIでユーロ一

ワールド

アングル:米政権の長射程兵器攻撃容認、背景に北朝鮮

ワールド

11月インドPMI、サービスが3カ月ぶり高水準 コ

ビジネス

S&P、アダニ・グループ3社の見通し引き下げ 米で
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中