最新記事

この時期急増「カブトムシのお葬式」 昆虫葬から見える日本人の死生観とは

2022年8月27日(土)14時00分

Hakase_ / iStockphoto


夏の終わりに需要が増すのが昆虫の葬式だ。2019年に昆虫葬のプランを始めた「愛ペットセレモニー尼崎」の初年度の申込は約10件だったが、20年40件、21年約100件、今年はすでに120件。ジャーナリストで僧侶の鵜飼秀徳さんは「一見、過剰な弔いに思える昆虫葬ですが、そこには日本人の深淵な供養心がある」という――。


「カブトムシが可哀想、ちゃんとお葬式をしてあげて」

特別に暑かった今年の夏も終わりに近づいてきた。この季節になると需要が増す、葬送サービスがある。昆虫の葬式だ。ひと夏で全うした、小さな命を弔いたいというニーズが高まりを見せ、「昆虫葬」なる業者が出現した。背景には核家族化や、マンション暮らし世帯が増えたことなどがある。一見、「過剰な弔い」とさえ思える昆虫葬。いや、そこには日本人の深淵(しんえん)な供養心があった。

関東のあるペット葬を請け負う業者の元に、祖父母と孫がカブトムシの死骸を持ってやってきた。そして、こう告げた。

「カブトムシを火葬して、お葬式をあげてもらえませんか」

話を聞けば、こういうことだ。

都会に住む孫が夏休み、田舎の祖父母の家で数日暮らすことになった。その間、手に入れたカブトムシが死んで、孫は祖父母にこう懇願したという。

「カブトムシが可哀想だからちゃんとお葬式をしてあげて」

孫には夏場しか会えない。可愛い孫の願いはなるべく叶えてあげたい。そうして、ペット葬業者に連絡してきたのだ。

ペットを飼育しない人から見れば、核家族化・少子高齢化に伴う、過剰なペット供養の一コマにも見えることだろう。現在、ペット葬はイヌやネコにとどまらず、あらゆる生きものが対象になっている。ハムスターなどの小動物、インコや文鳥などの鳥類、カエルやイモリなどの両生類、ヘビやカメなどの爬虫(はちゅう)類、金魚やアロワナなどの観賞魚......。現代日本では、これら人間以外の生き物すべての葬式が存在している。私の知人の寺でもペット葬は人間の葬式以上に盛況で、近年は爬虫類の葬儀が増えているという。

昆虫葬のプランへの申込件数は当初の12倍に急成長

昆虫の弔いはその最たるもの。こうした、特殊なペット葬のニーズの高まりを受け、専門の葬儀社も出現してきている。

そのひとつ、「愛ペットセレモニー尼崎」(兵庫県尼崎市)は、2019年から昆虫葬のプランを始めた。初年は申込が10件ほどであったが、翌2020年は40件に増加。さらに2021年はおよそ100件、今年は既に120件ほどと需要が高まっている。

増加の理由は複数ある。近年、マンション住まいが増えたことは最大の要因だ。つまり、小動物を埋葬する場所(自宅の庭など)がない。かつては、公園の片隅に埋めることも少なくなかったが、今では人目が憚られ、だからといってゴミに出すことには抵抗があるのだ。

愛ペットセレモニー尼崎の昆虫葬の様子

愛ペットセレモニー尼崎の昆虫葬の様子 写真提供=アビーコム

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起

ワールド

トランプ氏、ウクライナ戦争終結へ特使検討、グレネル

ビジネス

米財務長官にベッセント氏、不透明感払拭で国債回復に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 7
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中