最新記事

ヘルス

「これほど抗うつ効果が高いものは思いつかない」 世界的な著名精神科医が指摘するある『行動』とは

2022年8月7日(日)11時26分
アンデシュ・ハンセン(Anders Hansen) *PRESIDENT Onlineからの転載
心身を健康に保つ運動のイメージ

*写真はイメージです metamorworks - iStockphoto


うつの予防、治療には何が有効なのか。スウェーデンの精神科医、アンデシュ・ハンセンさんは「多くのうつの患者を診察する中で、運動をしている人はうつが治りやすいのではないかと気付いた。さまざまな研究をみると、運動には抗うつ効果があることがわかってきている」という――。

※本稿は、アンデシュ・ハンセン『ストレス脳』(新潮新書)の一部を再編集したものです。

患者を診ていて気付いた「運動の抗うつ効果」

私たち医療従事者は患者と接しているうちにパターンが存在することに気づく。この人は治りそうだが、あの人はあまり上手くいかないだろう、といったことを感じるようになるのだ。しかし、その直感に頼りすぎるのもいけない。たまたまかもしれないし、自分が常々思っていることを裏づけるケースほど記憶に残りやすいものだ。

しかし2010年頃に気づいたのが、うつの患者で運動をしている人たちは病院に戻ってこないことだった。何度か受診しただけで、そのあとはもう見かけないことが多かった。そのせいで、運動には抗うつ効果があるのではないかと思い始めた。

研究を調べてみると、驚いたことにまさにそのとおりなのだ。ここ10年、運動によってうつを治療する研究が多数行われてきた。私が一番驚き、かつ最も重要だと思うのは、うつの予防、つまり運動でうつになるリスクを下げられるという研究結果だ。

自転車テストとうつの関係

6分間全力で自転車を漕いでから、力の限り握力測定器を握る。その結果から今後7年間にあなたがうつになるかどうかがわかると思うだろうか。

10年前の私は、握力やエアロバイクの結果と自分が今後うつになるかどうかに関連があるなんて到底信じられなかった。別のリスク要因──例えば仕事を失うとか、パートナーに別れを告げられるとか、家族が病気になるとか、といったことならわかる。だけど握力測定器のハンドルをどのくらい強く握れるかで? そんなことが関係あるわけない! そう思ったものだ。しかし今では考えが変わった。

イギリスで15万人の被験者がエアロバイクによる有酸素運動と握力測定の簡単なテストを受け、うつや不安の症状に関する質問にも答えてもらった。7年後にまた調査をしたところ、状態が良くなっていた人もいれば、悪くなっていた人もいた。うつの基準を満たすほど悪くなっていた人もいた。

興味深いのは、精神状態の変化と7年前のエアロバイクのテスト結果に関連性があったことだ。うつになるリスクは身体のコンディションの良い人のほうが低かった。

別の言い方をすると、身体のコンディションの良い人はうつになるリスクが半分ほどに減り、不安に襲われるリスクも低かった。同じことが握力についても言え、数値の高い人のほうがうつや不安障害のリスクが低かった。しかしコンディションの良し悪しほど、はっきりした違いはなかった。

つまり、うつになるリスクは身体のコンディションの良い人のほうが低いわけだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    注目を集めた「ロサンゼルス山火事」映像...空に広が…
  • 10
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中