医師が「空間除菌グッズは使うな」と警告する理由 気休めにしては危険すぎる
「雑貨」にしては危険性が高すぎる
据え置きタイプについても、インフルエンザの感染予防効果を期待して購入された製品に添付されていたゲル化剤を、1歳9か月の幼児が誤飲しメトヘモグロビン血症を起こして気管挿管までされた症例が日本小児科学会雑誌に報告されています。空間除菌に使用される化学物質の分解生成物が血中のヘモグロビンを酸化させ、異常なヘモグロビン(メトヘモグロビン)を生じさせます(※5)。
成人についても事故の報告があります。38歳男性が呼吸困難のため近医を受診し、酸素飽和度が70%と低下を認め救急病院に搬送されました。呼吸困難発症の数時間前に自宅で空間除菌製剤を使用していたことが判明し、中毒性メトヘモグロビン血症と診断され、輸血や10日間の入院を要しました。この症例でも「新型コロナ感染予防目的のため」空間除菌製剤が使用されています。
適切に使用すればこうした事故は起こらないとメーカーは主張するかもしれません。しかし、感染予防効果が明確ならばともかく、効能があるのかどうかもわからないのに、使い方を間違えれば入院するほどの事故が起きうる製品を使うのは非合理的です。
お守りや気休めにしては危険すぎます。また、これらの事故の被害に遭った消費者が、空間除菌製品は感染予防効果が証明されていない「雑貨」であることを知っていたとしたら、これらの事故は起こっていたでしょうか。このような事故の再発を予防するために、製品に感染予防効果が証明されていないことを周知する道義的責任がメーカーにあると私は考えます。
(※6)上月美穂ほか、COVID-19感染予防目的に二酸化塩素空間除菌剤の使用により中毒性メトヘモグロビン血症を来した1例、日本救急医学会雑誌(0915-924X)31巻11号 Page.1036(2020.11)
名取 宏(なとり・ひろむ)
内科医
医学部を卒業後、大学病院勤務、大学院などを経て、現在は福岡県の市中病院に勤務。診療のかたわら、インターネット上で医療・健康情報の見極め方を発信している。著書に『新装版「ニセ医学」に騙されないために』(内外出版社)。