最新記事

日本人が知らない 休み方・休ませ方

部下に長時間労働を課す管理職は罰金を払わされる国

LIFE BEFORE WORK

2020年4月17日(金)15時25分
熊谷 徹(ドイツ在住ジャーナリスト)

写真はイメージです Bojan89-iStock.

<コロナ危機の在宅勤務が突き付ける「働く」と「休む」の境界線。休めない病の日本人と違い、ドイツでは厳格な法律と社会的合意で有休取得100%を実現している。本誌「日本人が知らない 休み方・休ませ方」特集より>

ドイツのGDPは日本よりも少ないが、休暇については世界でトップクラスだ。その背景には厳格な法律と社会的合意がある。

20200421issue_cover200.jpg1963年に施行された連邦休暇法によって、企業は社員に少なくとも24日間の有給休暇を取らせることを義務付けられている。実際には大半の企業が30日の有給休暇を与える。祝日や週末も加えると、ドイツ人は毎年約150日休んでいることになるが、会社や経済は回っている。

管理職以外の社員の有休取得率は100%だ。有給休暇を残す社員はほぼ皆無。むしろ社員が有給休暇を残していると、管理職は労働組合から批判される。また経営者は社員の健康を守る義務があるため、部下に休暇を取らせない管理職は保護義務をおろそかにしているとして、勤務評価を下げられてしまう。

さらに法律によって会社員は1日当たり10時間以上の労働を禁止されている。日本の労働基準監督署に当たる官庁が、ときおり労働時間の抜き打ち検査を行う。社員に10時間以上の労働を恒常的に行わせていることが分かると、企業は最高1万5000ユーロ(約180万円)の罰金、もしくは最高1年間の禁錮刑を科せられる可能性がある。長時間労働を行わせていた課の管理職に罰金を払わせることもあるため、管理職は部下の労働時間を厳しくチェックする。

社員が病気やけがで働けなくなった場合には、企業は最長6週間まで給料を100%支払う。従って、日本のように病気で休むために有給休暇を消化することはあり得ない。病欠と有休を混同することは禁止されているのだ。

法律・規則を遵守する国民性

2~3週間の長期休暇も珍しくなく、部長、課長クラスでも2週間の休みを取るのは日常茶飯事。さらには、給料やボーナスの一部を返上して、3カ月~1年間休むサバティカル休暇を採用している大企業もある。ある企業の管理職は3カ月間のサバティカル休暇を取って、アフリカでボランティア活動を行った。3カ月間世界一周旅行に行った知人もいる。この間、休んでいる社員のポストは空けておかなければならない。

なぜドイツではこんなことが可能なのだろうか。1つの理由は、労働組合の影響力が強いことだ。ワークライフバランスの改善は、第2次大戦以降、労働組合の努力によって得られたたまものである。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国副首相が米財務長官と会談、対中関税に懸念 対話

ビジネス

アングル:債券市場に安心感、QT減速観測と財務長官

ビジネス

米中古住宅販売、1月は4.9%減の408万戸 4カ

ワールド

米・ウクライナ、鉱物協定巡り協議継続か 米高官は署
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 5
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中