株価暴落の世界的連鎖は地政学危機に拍車をかける
Global Market Meltdown Adds to Geopolitical Chaos
アメリカからはほかにも悪い知らせがあった。過熱気味のテクノロジー部門にかげりが見え始め、インテルなどの大手テック企業の業績が悪化。アップルからは大規模な資金流出があった。この結果、これまで高値で取引されてきたテクノロジー株の調整ムードが高まり、売りが加速した。
米シンクタンク「外交問題評議会」の国際経済部門を率いるベン・ステイルは、「過去1年間の強気市場を後押ししていたのは、FRBが経済をソフトランディング(軟着陸)させるだろうという確信と、人工知能(AI)への投資がすぐに成果を挙げるだろうという見通しだった」と指摘した。「だが今、市場はFRBが利下げの判断で大きく出遅れ、AI市場の収益が期待を大きく下回るのではないかと恐れている」
衝撃は日本からももたらされた。7月末に日銀が、物価の上振れリスクに先手を打つべく、政策金利を予想外に実質0%から0.25%に引き上げたのだ。利上げ幅は小幅だが、ゼロ金利の日本のタダ同然の資金に慣れていた世界中の投資家にとって、これは悪い兆しだった。
金利が上昇して円の価値が急騰すれば、ゼロ金利で日本円を借り入れて、その資金を世界中の高利回りな資産に振り向けて稼ぐこれまでのやり方が通用しなくなる。投資家たちはいま円の不足を補うために保有株を売却し、世界市場は強気から弱気に転じることになった。
米大統領選は再びトランプ有利へ?
株式市場から逃げた資金がどこに振り向けられるかといえば、アメリカやドイツの10年物国債などの「安全資産」だ。米国債の利回りは7月末以降およそ0.5ポイント低下しており、ドイツ国債の利回りも低下している(利回り低下は債券価格の上昇を意味する)。
世界市場において最も信頼できる安全資産と考えられている米国債とドイツ国債の利回り低下は、巨額の資金が大急ぎで安全資産へと逃避していることを示す兆候だ。
今回の市場の混乱には、表面上はリーマンショックの2008年といくつかの類似点がある。激戦となっている米大統領選の最終段階を決定づける一つの要素になる可能性がある点だ。
ジョー・バイデン米大統領の就任以降、米経済は力強い成長を遂げ、失業率は低く、株価は上昇してきたが、一方でインフレに悩まされてきた。米経済がついに勢いを失いつつあるのではという恐れなどから米株市場が調整局面に入っていることは、民主党にとってあまりいいニュースではない。
共和党の大統領候補であるドナルド・トランプが厳しい経済見通しや株価下落を自分の有利に利用している状況では特にそうだ。トランプがこれを利用して、カマラ・ハリスに対して劣勢に立たされつつある選挙キャンペーンの活性化に成功する可能性は十分にあると、米シンクタンク、ピーターソン国際経済研究所の経済・貿易専門家であるゲイリー・ハフバウアーは指摘する。