アメリカに初めて「ゴッホの絵画」を輸入した男...2500点の名画を集めた大富豪バーンズの知られざる「爆買い人生」
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ただ、当初はアメリカにようやく入ってきたモダンアートを理解することに苦労した。「どうしてグラッケンズはネコをピンク色に描くのか」といった具合だ。
だが、すぐに、この新しいグループの芸術家たちには、「普通の人には存在しない色」が見えるのだと、バーンズは考えるようになった。こうした「普通でない」視点を、約2年がかりで教えてくれたグラッケンズは、主題においても描き方においても、モダンな作品を選ぶようバーンズを説得した。
バーンズが買い始めたグラッケンズの作品の1つである『ポニーバレエ(Pony Ballet)』は、群舞のダンサーを描いている。だが1人に大きくフォーカスしているため、左側の踊り子は左半身の一部しか見えず、右側の踊り子は肘がわずかに描かれているだけだ。
まるで大胆な写真か、映画のワンシーンを切り取ったような斬新な絵だ。
批評家は「万華鏡のような色使い」を絶賛するか、「衣装をまとった体に対して、ひょろっとした腕が小さすぎる」と酷評したが、へそ曲がりのバーンズは、称賛よりも批判を重視したのかもしれない。
バーンズはすぐに、本当に重要な作品を手に入れるためには、ニューヨークの芸術家や画商を頼りにしていては駄目なことに気が付いた。そこで1912年初頭にグラッケンズに手紙を書き、「ルノワールやシスレーなどモダンの画家」の作品をパリで購入してほしいと希望を伝えた。