中国警察からの一本の電話が......特殊詐欺に1億5000万円をだまし取られた初老男性の驚愕の実話
―― 被害に遭ったトラウマから立ち直ることはできた?
発覚したときは本当に落ち込んだし、悲しかった。事態が明るみに出た後の5日間ほどは「これからどうやって生きていこう」と真剣に考えた。でも、起きてしまったことは仕方がない、過去のことだと、どうにか前を向こうとした。
今はトラウマを乗り越えて、シンプルで快適な生活を送っている。
台湾に帰ることにしたのは、生活を成り立たせるためだ。アメリカにいると家賃や車の維持費、保険など、とにかく金、金、金だからね。両親が家を残してくれたことには救われた。現在はその家で暮らし、それで大分節約できている。
―― 事件を映画化するまでの経緯は?
ロー監督:プロデューサーを務めているジェリーの息子ジョンとは十年来の付き合いで、ニューヨークで一緒に仕事をしてきた。ある日、ジョンが「大変なことが起きた。父親がここ数カ月、中国警察と協力して諜報活動をしているらしい」と言ってきた。
僕は信じられなかったし、ジョン自身も「本当なのか探りたいが、どうしたらいいだろう」と言うので、まず僕らはフロリダへ飛んだ。
ジェリーが一人暮らしをしているところを訪ね、カメラを据えてインタビューをした。すると、ジェリーはファンタジーのような物話を語り始めたんだ――中国警察から協力要請があり、エージェントとして諜報活動をしている。秘密裏に録音をしたり、写真を撮ったりしている。これは家族にも秘密にしてきた、と。
話を聞くうちに、彼が相当な額のお金を送金していたことも分かった。ジェリーは中国警察に送っていたつもりだったが、実際は詐欺師にだまされて、全財産を送ってしまっていたんだ。
ジョンはFBIに提出するため、メッセージアプリのやり取りや送金履歴などの証拠を集めたが、一方でジョンも僕も「これは何か作品になりそうだ」と考え、どういう話にするかを話し合った。
フィクション長編となれば1年かけて脚本の推敲をし、ハリウッドに売り込むことになる。しかし、70歳を超えた中国語を話す俳優をキャスティングするのは簡単ではない。企画としては難しいと考え、ジェリーに自身役で主役を張るのはどうかと提案した。
ジェリーはやりたいと即答したが、ただし、スパイ映画にしてくれと言ってきた。詐欺師たちの指示に従って活動していたとき、まるで007やジェイソン・ボーンになったような気分だったらしい。観客にも同じような気分、冒険を提供できたらいいのではないかと考えたようだ。
こうしてジェリーの実体験をもとにした半分ドキュメンタリー、半分スパイスリラーのような映画が出来上がった。でもその核にあるのは、アメリカンドリームを追い求めてやってきた移民の物語だ。