最新記事
演劇

ももクロ、オペラ、ロボット演劇を経て原点回帰へ 平田オリザが語る「劇作家」としてのこれから

2024年7月3日(水)17時35分
柾木博行(本誌記者)

演劇の社会的地位向上を果たしたい

──豊岡のみならず、日本全国各地をワークショップや講演で連日飛び回っていますが、ここまでくれば、もうそろそろ減らして、劇作に充てる時間を増やしてもいいんじゃないですか?

うーん、そうもならなくて。もともと落ち着きがないんですよ。だからずっと台本を書いてられないんです。すぐ飽きちゃって、他のことをしちゃうので。それで、ゲームはやらないですけど、テレビとか見ちゃうくらいなら、エッセイ書こうかとか、論文書こうか、小説書こうかみたいな感じで。落ち着いたからと言ってたくさん芝居を書けるわけではない(笑)。

あと、以前より良くなったとは言っても、まだまだ演劇も芸術も社会的な地位が、欧米、特にヨーロッパに比べると圧倒的に低いんです。僕は向こうで仕事をしてきたので、プレミアリーグを経験したサッカー選手とかと同じで、せっかく一生の仕事として選んだからには演劇をもうちょっとどうにかしたいなっていう思いがあります。

──劇団の新作は今、数年に1本くらいですか。

そうですね。小っちゃいものは結構書いていますが。それと、来年はまた新作オペラを瀬戸内国際芸術祭と豊岡演劇祭の共同制作で作ります。香川県が高松市にあなぶきアリーナ香川という多目的アリーナを作るんですが、定員1000人のサブアリーナの杮落としを頼まれています。

ただ、やっぱり劇団でのお芝居が一番大変なので、今回アゴラの売却もあって、色々と経済的に落ち着かせて、再来年くらいからフルスペックの新作を年に1本は作りたいと思っています。

──2000年代に入ってからはロボット演劇なども展開していました。

2010年からの10年間は震災もあったし、ロボット演劇をやって、オペラもハンブルク州立歌劇場*という頂点まで極めて、小説を書いて、ももクロ主演で映画化もされて。ちょっと方向性がバラバラになっちゃったので、そろそろ原点に返って劇作家として集中したい。やっぱり自分としては劇作家のマインドが一番強いので。書くのが一番好きですから、そういう気持ちはあります。

*細川俊夫のオペラ『海、静かな海』に平田は作・演出として参加。2016年にケント・ナガノの指揮で世界初演された。ハンブルク州立歌劇場は1678年に開場、グスタフ・マーラーも音楽監督を務めたドイツを代表する歌劇場。

──昔、日本劇作家協会の北九州大会でコンピューターに劇作ができるかというシンポジウムに出席されていましたが、最近はAIの進化がすごいですよね。

あれは、いいんじゃないですか、どんどん使えば。僕はロボット演劇やっていたくらいだから全然アレルギーはないです。ロボットをやり始めたときも随分怒られましたけどね。いろんな人に「けしからん」とか。いつも怒られてる(笑)。

これも100年後はわかんないですけど、将棋の世界で人間がコンピューターに負けて、もう将棋は終わったかな、というところから、藤井聡太さんみたいな天才が出てきて、将棋の質が変わりましたよね。だから、これからの20年はAIをうまく使った者が勝ちになるんじゃないですかね。だって、藤井さんに対して、「お前はオリジナルの手がない」っていう人はいないでしょ。勝てないんだから誰も。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

〔ロイターネクスト〕トランプ関税で目先景気後退入り

ビジネス

ソフトバンクG、オープンAIに追加出資 最大5.9

ビジネス

大企業・製造業DIは4期ぶり悪化、非製造業は91年

ワールド

ブラジル前大統領、ルペン氏公職追放を「左派的司法活
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 9
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中