最新記事
演劇

ももクロ、オペラ、ロボット演劇を経て原点回帰へ 平田オリザが語る「劇作家」としてのこれから

2024年7月3日(水)17時35分
柾木博行(本誌記者)

青年団の近年の代表作『日本文学盛衰史』

青年団の近年の代表作『日本文学盛衰史』 © T.Aoki

──劇作家として今後やっていきたいと思うことは?

テネシー・ウイリアムズだって面白い短編もたくさんあるけど、やっぱり今残っているのはほぼ初期の『ガラスの動物園』『欲望という名の電車』の2本ですよね。だから、そんなに歴史に残るものを何十本も書けないんですよ。ただ僕の場合は『ソウル市民』があり、『東京ノート』があり、『S高原』があり、幸いにして今も世界中で上映してくださるというのは、それは劇作家としては非常に幸福だったと思います。

ただ、そうは言ってもここに留まるんじゃなくて、60代の平田オリザにしか書けないものはあると思っています。例えば『日本文学盛衰史』*、あれは書くのがすごい大変だったんですよ。あれだけの大作で登場人物の細かい一覧表まで作ったから。でも、そういう時間かけてきちんと書く作品もやりたいなとは思います。それと学生たちとも何年かに1回はやりたいですね。

*高橋源一郎の同名小説を原作にした作品。北村透谷、正岡子規、二葉亭四迷、夏目漱石という明治の文豪の葬儀を舞台にコメディタッチで描いた青春群像劇。上演時間が休憩なし2時間20分、出演者24人という大作で平田は第22回鶴屋南北戯曲賞を受賞した。

地方に暮らす人びとの営みを描いていく

──ご自身に子供ができたとか、そういうことの影響は?(2017年、55歳にして初めて子供ができた)

児童劇に関してはあります。今年も、ほんとに小さい20分くらいの作品を今書いているところなんですけど、そういうのはあります。

──お子さんの存在が作家としての代表作へ与える影響は?

それは多分ないでしょう。でも、地方に移住したことの影響はあると思います。やっぱり、地方に暮らす人々の喜びとか悲しみという部分は。たまたま『東京ノート』ってそういう内容で、よくあんな芝居をあの時代に書いたなって自分でも感心するんですけど。

でももうちょっと、今の時代の地方に生きる人たちとか都会に出ざるを得なかった人たちのこととかは、わかるようになったかなって感じがする。次は多分、そういう作品を書くと思うんです。


newsweekjp_20240630095704.png平田オリザ(ひらたおりざ) 1962年東京生まれ。劇作家・演出家・青年団主宰。芸術文化観光専門職大学学長。江原河畔劇場 芸術総監督。豊岡演劇祭フェスティバル・ディレクター。国際基督教大学教養学部卒業。1995年『東京ノート』で第39回岸田國士戯曲賞受賞、1998年『月の岬』で第5回読売演劇大賞優秀演出家賞、最優秀作品賞受賞。2002年『上野動物園再々々襲撃』(脚本・構成・演出)で第9回読売演劇大賞優秀作品賞受賞。2002年『芸術立国論』(集英社新書)で、AICT評論家賞受賞。2003年『その河をこえて、五月』(2002年日韓国民交流記念事業)で、第2回朝日舞台芸術賞グランプリ受賞。2006年モンブラン国際文化賞受賞。2011年フランス文化通信省より芸術文化勲章シュヴァリエ受勲。2019年『日本文学盛衰史』で第22回鶴屋南北戯曲賞受賞。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

貿易分断で世界成長抑制とインフレ高進の恐れ=シュナ

ビジネス

テスラの中国生産車、3月販売は前年比11.5%減 

ビジネス

訂正(発表者側の申し出)-ユニクロ、3月国内既存店

ワールド

ロシア、石油輸出施設の操業制限 ウクライナの攻撃で
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中