荒唐無稽だけど最高のワクワク感...『ミッション・インポッシブル』最新作は、集大成にふさわしい
MI Takes On AI
今回は凄腕のスリでもあるグレース(ヘイリー・アトウェル)が陣営に加わる。イーサンと彼女が小さなフィアットでローマの街中を逃げる場面は、アクションとコメディーが心地よく混ざり合っている(互いの片手を手錠でつながれたまま運転する技術も習得したようだ)。
リアルな世界の質量感
さらに、IMFの元上司ユージーン・キトリッジ(ヘンリー・ツェーニー)や、愉快なほど道徳心がない武器商人のホワイト・ウィドウ(バネッサ・カービー)など、敵か味方か分かりかねる面々も再登板する。
本作の最大の欠点は、観念的な悪役の設定が中途半端なことだ。「エンティティ」と呼ばれる謎めいた万能のAI(人工知能)は顔も肉体もない邪悪な力で、人間の意識や思考を獲得しようとする脅威を感じさせるが、抽象的すぎて悪党としての説得力がない。
それ以上に捉えどころがないのが、エンティティと、冷酷な子分でテクノロジーの代理として戦うガブリエル(イーサイ・モラレス)との関係だ。この男はなぜ、人類を脅かす目に見えない塊のために命を懸けて戦うのか。人工知能が約束する未来を心から信じているのか。
貨物機のシーンで、ガブリエルの動機に関する大切なせりふを私が聞き逃した可能性はある。もっとも、AIを敵役に選んだのは確かに超タイムリーだが、それ以上でもそれ以下でもないようだ。
イーサンがバイクもろとも崖からダイブするシーンは正真正銘、命懸けのスタントで、スマートテクノロジーの時代に人間らしさを持続させるという思いを、どんなせりふより雄弁に語っている。
そして、「真実は消えつつある」というウィドウの不吉なせりふは、映画の世界を覆う機械学習の脅威と重なる。フェイクよりリアル、デジタルよりアナログ、ストリーミング配信より劇場上映を追求するクルーズの情熱は、シリーズの製作と配信を貫くテーマであり、映画全体の継続的なテーマでもある。
『デッドレコニング』の筋書きを牽引するディープフェイクや偽情報、アルゴリズムで操作されたデータの恐怖は、視覚効果のトリックに対してシリーズが示し続けてきた反感を、かつてないほど鋭く表現している。リアルな世界の質量や重力、スピード、人間の純粋な勇気の力を信じるクリエーターたちの揺るぎない信念が、CGで育った21世紀の観客をわくわくさせる。
破壊された橋の端にぶら下がった列車の車内を垂直によじ登るという荒唐無稽な勝利のフィナーレは、1926年の『キートンの大列車追跡』を思わせる。97年前も今も、生身の人間の壮大なアクションに私たちは圧倒される。
MISSION: IMPOSSIBLE - DEAD RECKONING PART ONE
『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』
監督╱クリストファー・マックァリー
主演╱トム・クルーズ、ヘイリー・アトウェル
日本公開中