軽やかにジャンルを行き来し「音楽の未来」を体現した、坂本龍一の71年
COMPOSER FOR THE AGES
審査員をつとめた、第68回ベルリン国際映画祭の記者会見にて(2018年) Fabrizio Bensch-REUTERS
<「ただ音のシャワーを浴びたくて」。クラシックから最先端のテクノまで、心の奥底に届く深遠な音楽を紡いだ男の生涯について>
日本を代表する作曲家で、映画『ラストエンペラー』(1987年)や『シェルタリング・スカイ』(90年)、『レヴェナント 蘇えりし者』(2015年)などの音楽を担当した坂本龍一が3月28日に死去した。71歳だった。
本人のインスタグラムでは死因などを明かしていないが、ステージ4の癌と診断され、長く苦しい闘病生活を送っていたことは知られている。
未来的なテクノポップから古典的なオーケストラ曲、ビデオゲーム用の楽曲から繊細なピアノソロまで、坂本は自在にこなした。彼の音楽はキャッチーで感情を揺さぶる一方、身の回りにある自然な音も巧みに取り入れていた。
数々のソロアルバムを発表する一方、ジャンルを超えて多彩な音楽家とコラボし、その楽曲によりアカデミー賞とBAFTA(英映画・テレビ芸術アカデミー)賞、グラミー賞、ゴールデングローブ賞(2度)を受賞している。
1978年にはイエロー・マジック・オーケストラ(YMO)の結成に参加し、シンセサイザーやシーケンサーを駆使して「コンピューター・ゲーム」などのキャッチーなヒット曲を生み出し、日本音楽に対する西洋人の固定観念を覆した。
「好奇心。それが彼のテーマだ」。長らく坂本とコラボしてきたカールステン・ニコライは2021年の電話インタビューで、そう語っている。
「龍一はすごく早い時期から気付いていた。音楽の未来は必ずしも特定のジャンルにあるのではなく、異なるスタイル、普通じゃないスタイル間の対話にあるのではないかと」
坂本の名が世界に知られるようになったのは、大島渚監督の映画『戦場のメリークリスマス』(83年)でデヴィッド・ボウイと共演してからだ。大島監督は演技経験のない坂本に出演を依頼し、坂本は映画の音楽を担当することを条件に監督の依頼に応じたのだった。
シンセサイザーを駆使した『戦メリ』のテーマは坂本の代表曲の1つとなった。歌手デビッド・シルビアンはこの曲に詞を付け、「禁じられた色彩」のタイトルで切々と歌い上げた。ピアノやオーケストラ用にアレンジしたバージョンもある。
この成功を機に、坂本はベルナルド・ベルトルッチ監督の「東洋3部作」と呼ばれる『ラストエンペラー』、『シェルタリング・スカイ』、『リトル・ブッダ』の音楽を手がけることになった。