「何を見せたいか」を心得るスピルバーグによる自伝的映画は、やはり「してやったり」な出来ばえ
Spielberg’s Coming of Age
スピルバーグはユダヤ系ならではの家庭生活を温かく描きながら、フェイブルマン家の崩壊を見届ける。両親の結婚がついに破綻する頃、観客は自由を求めるミッツィにも妻の裏切りに傷ついたバートにも共感している。
やはりと言うべきか、スタッフの職人芸は完璧。ジョン・ウィリアムズの音楽は心を躍らせ、細部にこだわったマーク・ブリッジスの衣装はとびきり美しい。
映画はよくできた成長譚らしく、少年が大きな世界に旅立つところで幕を閉じる。
撮影所で、ある伝説的映画監督(ネタバレするには惜しいので、名前は秘密)と言葉を交わしたサミーは胸を高鳴らせ、表に出て誰もいない屋外セットをひとり歩く。
そして最後の最後で唐突に、スピルバーグはカメラのアングルを変える。この映画的な小さないたずらに、観客はみな同じ疑問を抱くだろう。
さすがは御年76歳のスピルバーグ。どこにカメラを向けたらいいのか分からないサミーと違い、観客に何を見せたいかを完全に心得ている。
The Fablemans
『フェイブルマンズ』
監督/スティーブン・スピルバーグ
主演/ガブリエル・ラベル、ミシェル・ウィリアムズ
日本公開は3月3日