ゲイの男性と実親を知らない青年が「父と息子」に...映画『二十歳の息子』が見せる「普通」とは違う家族の形
An Offbeat Father and Son Story
一緒に暮らし始め、新たな関係を少しずつつくっていく網谷(右)と渉 ©JYAJYA FILMS
<養護施設で育った20歳の青年と、支援団体で働く同性愛の男性が父子として再出発する>
両親を知らずに児童養護施設で育った渉と、養子縁組で彼の父になった網谷勇気を追ったドキュメンタリー映画『二十歳の息子』(島田隆一監督)が2月11日に公開される。同性愛者の網谷は施設の子供たちの自立支援団体で働くなかで、渉と出会った。
映画は2人の日常を淡々と描きながら、児童虐待や同性愛、家族や社会についても考えさせる。「一般的な家族像を目指すつもりはなかった」という網谷に、本誌・大橋希が話を聞いた。
――網谷さんは企業の社員を経て、児童養護施設の子供たちの自立支援団体ブリッジフォースマイルで働くようになった。
何度か転職するうちに株式会社で働くのは向いていないと思い、利益より人を優先するNPOやソーシャルベンチャーを探すようになった。14年度からブリッジフォースマイルで働いています。
自分が生きていく上でのテーマの中に「目に見えにくい生きづらさを抱えた人たちと関わりたい」というものがある。実は児童養護施設で暮らしている子供たちのことはよく知らなかったのですが、彼らも「カミングアウトジャンル」にいる、「言わないと分からないもの」を抱えた人たちなんだと気づき、関心がわいたのがきっかけです。やりがいもあるし、自分の特性にも合っている。いい業界と出会えたと思う。ただブリッジフォースマイルは3月末で辞めて、児童養護施設で働く予定です。
――島田隆一監督との出会いは?
監督は長い友達なんですよ。それで、仕事で渉と関わるなかでの僕の考えや思いを彼に吐露していた。いつも特定の子の話をしているのは分かっていたと思う。その子と養子縁組をすることになったけど撮る? って僕から聞いて、撮影が始まった感じですね。
――渉さんを友達や支援者として支えていくこともできるが、なぜ養子縁組を。
両親を知らず、ふわふわしている彼はどこかにちゃんとつながりがあったほうがいいと思っていた。それに(養子縁組の)制度に引っかければ、支援者や友達とは違い、彼が行方不明になってどこかで死んでしまっても連絡が来る。生きているか死んでいるかをちゃんと知っていたかったんです。
彼が価値観を変えてくれたというのもある。人生で初めて「長生きしたい」と思うようになった。彼と一緒にいるタイミングでたまたまそう思ったのか、彼だからこそ思ったのかは分からないけど、少なくとも30歳の渉が見たい、それには長生きしないと、って。