日本と香港を押しのけ、韓国エンタメが30年前に躍進し始めた理由
ソウルの繁華街 CJNattanai-iStock.
<韓国の映画・ドラマ・音楽が世界で躍進し、日本でも関心が高まっている。だが韓国のコンテンツ産業が90年代にその取り組みを始めていたことは、あまり知られていない>
「日本のコンテンツはこれからどうすればいいと思いますか?」
国際社会文化学者、タレント、歌人......と複数の顔を持ち、日本で活躍するソウル出身のカン・ハンナ氏は、ある番組に出演した際そう質問されたという。
カン氏にそんな質問が飛ぶのは、映画『パラサイト』やドラマ『イカゲーム』、BTSやBLACKPINKなどのアイドル・音楽グループがグローバルな存在感を増し、日本でも韓国コンテンツ産業に対する関心が高まっているから。
そしてカン氏は、日韓を股にかけ、メディアやコンテンツの研究も行っている。番組でカン氏はこう答えた。
「エルメスになってください」
その意図するところは、ブランドの哲学を大切にし、モノづくり精神を守るフランスの高級品メーカー「エルメス」のように、唯一無二の存在であり続けてほしいというもの。文化コンテンツには多様なやり方があり、日本には日本らしい、韓国には韓国らしい手法があるというのが、カン氏の考えだ。
とはいえ近年、コンテンツがグローバルに行き交う中で、日本の関係者には危機感が強いのだろう。だから冒頭のような質問が出る。
そんな人たちの役に立てたら――と、カン氏はこのたび『コンテンツ・ボーダーレス』(クロスメディア・パブリッシング)を執筆。
個々の作品の中身ではなく、韓国における制作の仕組みや作り手の考え方、韓国コンテンツ産業のマクロ的な分析を中心に、「ボーダーレス」な時代に突入したコンテンツ産業の現状を明らかにした。
ここでは本書から、韓国コンテンツが世界で認められる前の知られざる歴史を一部、抜粋して掲載する(本稿は抜粋の第1回)。
※抜粋第2回:CDが売れない2000年代に入り、韓国の音楽産業だけがやったこと
コンテンツ・ボーダーレスの時代に韓国コンテンツは世界からの注目を集めています。デジタルとコンテンツをうまく融合させた多数の成功事例はもちろん、今はドラマ、映画、音楽、ゲーム、キャラクターなどのコンテンツ産業からコスメ、ファッション、フード、ライフスタイルなどまで幅広く「made in Korea」がひとつのブランドになっているのです。
ここまで実績を積み重ねてきた韓国コンテンツについて深く理解するためには、まず韓国コンテンツが今までどのように成長してきたのか、韓国コンテンツの歴史を振り返ってみる必要があるかと思います。
1990年代:グローバルコンテンツの萌芽
今に至る韓国コンテンツの歴史を語るには、1990年代が起点になります。なぜなら、1990年代は世界各国で自国以外で制作された映画や音楽、つまり「グローバルコンテンツ」が注目され始めた時代だったからです。