『イカゲーム』のイ・ジョンジェにGOT7のジニョン、韓国トップスターが出演するアート
『世界の終わり』(2012年)2 チャンネル・ヴィデオ・インスタレーション 13分35秒 金沢21世紀美術館蔵 © MOON Kyungwon and JEON Joonho
<金沢21世紀美術館で開催された『ムン・キョンウォン&チョン・ジュンホ』展に韓国のトップスターが出演。どんなアートなのか?>
出遅れて8月の終わりに金沢21世紀美術館へ観に行き、あまりの衝撃に会期終了間際に諦め悪くこれを書いている。展覧会『ムン・キョンウォン&チョン・ジュンホ どこにもない場所のこと』(9月4日まで開催)の作品に韓国トップスターが幾人も出演していたからだ。
『イカゲーム』のイ・ジョンジェ、ボーイズグループGOT7のメンバーで俳優としての人気もうなぎのぼりのジニョン、大ヒットドラマ『恋のスケッチ〜応答せよ1988〜』の名演で知られるリュ・ジュンヨル。これはいったいどういうアートなのか?
■2人組アーティスト、ムン・キョンウォン&チョン・ジュンホ
2人はともに1969年生まれ、ムン・キョンウォンはソウル、チョン・ジュンホは釜山とソウルを拠点とし、それぞれアーティストとしてのキャリアを重ねていた。2007年、台北ビエンナーレに向かう飛行機で顔を合わせたことを機に親交を深め、一緒に映像作品をつくろうと意気投合。アーティスト・デュオとしての活動を09年から開始した。映像を中心に、立体や写真、絵画などを組み合わせたインスタレーションなどを発表している。
重要なポイントは、2人が現代アートに対して危機感を抱いていたことだ。12年、2人は映像作品『世界の終わり』をドイツの国際芸術祭ドクメンタで発表。当時、韓国の映画雑誌『シネ21』のインタビューでチョン・ジュンホは、今日のアートは大衆との疎通を図りたいとしながら、実際には難解で閉鎖的だと語っている。「美しさや感動が現代アートに存在するのか疑問に思った」。アートとは何か?を論じる作品をつくりたかったという。
そこで2人は、アートとは何か?アートの役割とは何か?という問いを、経済学者や動物学者、詩人、映画監督、建築家など、さまざまな専門家に投げかける学際的なプラットフォーム「News from Nowhere」を立ち上げた。これは、1890年にウィリアム・モリスが著した同名小説(邦題は『ユートピアだより』)からインスピレーションを得たプロジェクトで現在も継続されており、2人の映像作品にも関係をもっている。
■観客に我慢を強いる映像作品への問題意識
「アーティストによる映像作品のほとんどが『酷い』」。これは『美術手帖』(2022年7月号)のインタビューにおけるチョン・ジュンホの発言だ。「何も起こらなかったり、単純な行為を反復するだけだったりする長時間の映像に、観客が我慢強く付き合わなければならないという考えは間違っていると思います」と述べている。09年に協働を始めた頃から、2人は商業的な映画と比較して、アートの映像作品の質に物足りなさを感じていた。また、各々が映像を制作していたが満足できないところがあり、演出に対する切実な欲求を抱えていた。