映画『ブレット・トレイン』で、58歳ブラピがついにアクションヒーローに
Brad Pitt as Action Hero
暗く不快なニヒリズム
ブリーフケースの名目上の所有者はロシア・マフィアのボス、ホワイト・デス(マイケル・シャノン)。他のカメオ出演者と違い、この役にはそこそこ長いセリフがある。
イカれた高速列車に乗り合わせるイカれた面々はまだまだいる。動物園から脱走した凶暴な大蛇、列車の通路をパトロールする日本風マスコット、映画の後半に国際的暗殺者役で登場する女優のザジー・ビーツ......。
リーチは何でもありのコミカルな大騒ぎを盛り上げたかったようだが、映画のペースが速すぎる上に人が死にすぎるので、印象に残るのは暗くて不快なニヒリズムの雰囲気ばかり。どんな人物もいつひどい死に方をするか分からず、しばしば実際にそうなる。
幸運にも『ブレット・トレイン』と同じ鉄道路線、つまり東京から京都まで新幹線に乗った経験から言わせてもらえれば、私はこの映画よりも優れたアクションシーンやコメディーシーンのアイデアを少なくとも6つは思い付く。
例えば、新幹線から感じる静かな上品さと洗練されたサービス精神(車掌服の精緻なデザインは言うまでもない)は、様式化された暴力と美しいコントラストを成す背景になり得たはずだ。
とはいえ、「アクションヒーローとしてのブラッド・ピット」というアイデアは、やはり注目に値する。ピットの軽妙な存在感と、映画スターという自身のペルソナに対する自虐的なアプローチは、CGまみれの混沌に静かな安定感をもたらし、(少なくとも比喩的に)列車が脱線するのを防いでいる。
アクションについては、スタントを自分でこなすそぶりも見せないが、50代後半の男性としては十分すぎる体力を維持している。何よりピットのリラックスした態度と、銃を持ち歩かず、自己防衛以外に暴力を使わないというキャラクター設定が、この冷酷なブラックコメディーに可能な範囲で好感の持てる主人公像をつくり上げている。
また、ピットはあまり出来の良くない脚本でも、観客が自然に笑える演技をする。過小評価され気味なユーモアセンスこそ、彼の秘密兵器。大蛇をハイテクトイレに流そうとするシーンでは、思わず声を出して笑ってしまった。
同様のシーンはほかにもあったが、ここでは触れない。数少ない良質な笑いをネタバレしたくないこともあるが、本当によく覚えていないせいでもある。映画を見た3日後、『ブレット・トレイン』は新幹線よりも速く、私の頭から消えてしまった。
次回のピットには、もっと自分に合った、もう少し落ち着きのあるアクション映画に出てもらいたい。
©2022 The Slate Group
BULLET TRAIN
『ブレット・トレイン』
監督╱デービッド・リーチ
主演╱ブラッド・ピット、ジョーイ・キング
日本公開は9月1日