トム・ハンクスの新境地は、エルビス・プレスリーの胡散臭いマネージャー役
A Good Guy Steps Into the Shadows
うさんくさい役を演じて
それでも、パーカーが「エルビス・プレスリーの夢を、本人の想像をはるかに超えるレベルで実現した」ことは間違いない。例えば、パーカーはプレスリーのテレビ出演を制限して、ファンがコンサートに来る(つまりチケットを買う)よう仕向けた。ベスト盤を発表して、2年間の徴兵期間中もプレスリーが忘れられないようにしたのも、当時は新しいアイデアだった。
プレスリーに莫大な利益をもたらした映画出演やラスベガスでの長期公演も、パーカーのプッシュがあったからこそ実現した。娯楽コンテンツとしては初めて衛星中継されたコンサート『アロハ・フロム・ハワイ』は、世界で15億人が視聴した。
77年にプレスリーが急死した後も、パーカーは彼の代理人を務め続けた(ただし80年に裁判で非倫理的と判断されて終了)。そして97年にラスベガスで死去した。
それにしても、善人ばかり演じてきたハンクスが、なぜパーカーのようなうさんくさいキャラクターを演じようと思ったのか。
「役を引き受ける基準は、そのキャラクターに魅力を感じるかどうかだ」と、ハンクスは言う。「私ももう66歳になるから、役作りに情熱を傾けられる迫力のあるキャラクターでないとやれない」
とはいえ、これだけキャリアが長いと、スクリーンに登場したときに「あ、トム・ハンクスだ」と観客に思われないのは難しい。「その点、パーカーの話し方や容姿は私とものすごく違っていた。そういう役をやれるのは、俳優としては幸運だ」
特殊メークで大きな鼻と肉付きのいい顔立ちになり、批評家も驚く奇妙ななまりを身に付けて、ハンクスは『エルヴィス』でパーカーになり切ることに成功したようだ。
映画を楽しむためには、観客の側にも信じることが必要だと、ハンクスは言う。「その代わり、見に来てくれたら今まで見たことのないトム・ハンクスを見せるよ、という一種の取引が観客との間に存在すると思う」
『エルヴィス』で、監督のラーマンは「私が気が付いていなかったことを描こうとしていた」と、ハンクスは語る。「自分が知っていると思っていたことに、全く新しい要素があると教えてくれる映画だ。すごくクールだと思う」
パーカーは剛腕マネジャーだったが、プレスリーはその操り人形だったわけではない。「パーカーは初めてプレスリーを見たとき、彼の曲に興味はなかった。パーカーが注目したのは、プレスリーが観客に引き起こす反応だった」と、ハンクスは言う。「プレスリーは女性に金切り声を上げさせ、自分自身もステージ上で原始的な感覚に突き動かされていた。パーカーはそこに大きな魅力を感じたんだ」
ELVIS
『エルヴィス』
監督/バズ・ラーマン
主演/オースティン・バトラー、トム・ハンクス
日本公開中