都心に現存する奇跡の建築、東京都庭園美術館の美

1階の大客室は特に贅が尽くされ、ルネ・ラリックやマックス・アングランなどフランス人アーティストによる装飾が圧巻だ。
<日本における珠玉のアール・デコ建築として名高い東京都庭園美術館。国の重要文化財に指定されたこの名建築を、より深く知ることができる建物公開展が年に一度、開催されている>
アール・デコ建築の名作
アール・デコ建築の名作として知られる東京都庭園美術館。豊かな緑を有する港区白金台に立つ瀟洒な建物は、1933年に旧皇族朝香宮家の本邸として建設された。
戦後は吉田茂首相公邸や迎賓館として使用されるなど、時代に応じて役割を変え、1983年に東京都の美術館として生まれ変わった。3年にわたる改修工事を経てリニューアルオープンした2014年以降は、美術を中心とした企画展のほかに、毎年一度、建物公開展を開催。通常は非公開の居室が見学可能となるなど、建物を主役とする特別公開が行われている。
日仏100人以上が携わった大事業
朝香宮夫妻がアール・デコ様式で邸宅を建設することになったきっかけのひとつが、1925年に滞在中のパリで足を運んだ、現代装飾美術・産業美術国際博覧会(通称、アール・デコ博覧会)だったと言われている。アール・デコとは1920〜30年にかけてフランスを中心に欧米を席巻した装飾様式で、建築やインテリア、工芸、ファッションなどさまざまなものに波及した。有機的な形態を特徴とするアール・ヌーヴォーに対し、直線的なデザイン、幾何学模様のモチーフ、シンメトリーな配置などを特徴にもつ。
洗練されたアール・デコの美しさに惹かれた朝香宮夫妻は、帰国後にフランス人アーティスト、アンリ・ラパンに邸宅の主要部分の設計と装飾を依頼。皇室建築をつかさどる宮内省内匠寮(たくみりょう)が設計監理と内装の一部を担当し、100 人を超える人々が携わって日仏共同で進められた。東京都庭園美術館の大木香奈学芸員は次のように説明する。
「フランスのアーティストが設計に直接関わる一方で、日本の要素を巧みに取り入れて建設されました。この点はほかの宮家建築と一線を画す大きな特徴です」