美しさに「味」が加わった稀有な才能...クリス・パインは第2のレッドフォードだ
The New Robert Redford
彼が初めて大役を手にしたのはJ・J・エイブラムス監督の『スター・トレック』(2009年)だ。若き日のジェームズ・T・カーク船長を演じた。
オリジナル版のカークを特徴付けていたのは、ウィリアム・シャトナーのコミカルで派手な演技とメロドラマ的な激しさだった。だがパインはそれをまねるのではなく、傲岸で短気だが愛すべき人物像を新たに創造した。誰もが知る衝動的で女たらしの船長の若き日の姿としても説得力のある人物造形だった。
パインには少年っぽい情熱と厭世的な知性が同居している。同世代の男性俳優たちとは一味違う個性の持ち主と言っていいだろう。過去20年ほどのキャリアの中で彼が演じてきたキャラクターを振り返ると、そうした個性を生かせる役が非常に少ないことがうかがえる。
思えばレッドフォードが『コンドル』で演じたのは、本を読むのが仕事のCIA職員だった。本来は体より頭を使うタイプだった彼が、アクションヒーローへの変貌を余儀なくされて何が起きるかが見どころの1つになっている。パインも時には、頭も筋肉も使うタイプのキャラクターに出合うことができた。
『スター・トレック』の次にパインが手にした大役は、『アンストッパブル』(10年)で演じた新米車掌のウィルだ。頭がよくて生意気だが、最後にデンゼル・ワシントン演じるベテラン機関士と力を合わせ、体を張って暴走列車を止める。
14年の『エージェント:ライアン』では、ハリソン・フォードやベン・アフレックらが過去に演じたトム・クランシー作品のアクションヒーロー、ジャック・ライアンを演じたが、これは役選びの失敗だった。パイン自身も後に「駄目だった」と語っている(もっとも紋切り型の台本の問題も多分にあったのだが)。
これまでで最も面白い役柄
16年の『最後の追跡』ではベン・フォスターと組んで銀行を襲撃する兄弟を演じた。粗暴な兄とは対照的な出来のいい弟という役回りで、これまでで最も面白い役だったと言えるかもしれない。
またミュージカル映画『イントゥ・ザ・ウッズ』(14年)ではシンデレラの王子役を演じ、ビリー・マグヌッセンとコミカルなデュエットを歌って新境地を開拓してもいる。
パインはスーパーヒーローものの作品に出たことはあっても、自身でヒーローを演じたことはない。『ワンダーウーマン』のシリーズで演じているのも主人公ダイアナの恋人(つまり脇役)のスティーブで、彼は「勇者に救われる捕らわれの姫君」のような立場。危険な目に遭ってはダイアナに救われる。