最新記事

俳優

美しさに「味」が加わった稀有な才能...クリス・パインは第2のレッドフォードだ

The New Robert Redford

2022年5月12日(木)18時45分
デーナ・スティーブンズ(映画評論家)

彼が初めて大役を手にしたのはJ・J・エイブラムス監督の『スター・トレック』(2009年)だ。若き日のジェームズ・T・カーク船長を演じた。

オリジナル版のカークを特徴付けていたのは、ウィリアム・シャトナーのコミカルで派手な演技とメロドラマ的な激しさだった。だがパインはそれをまねるのではなく、傲岸で短気だが愛すべき人物像を新たに創造した。誰もが知る衝動的で女たらしの船長の若き日の姿としても説得力のある人物造形だった。

パインには少年っぽい情熱と厭世的な知性が同居している。同世代の男性俳優たちとは一味違う個性の持ち主と言っていいだろう。過去20年ほどのキャリアの中で彼が演じてきたキャラクターを振り返ると、そうした個性を生かせる役が非常に少ないことがうかがえる。

思えばレッドフォードが『コンドル』で演じたのは、本を読むのが仕事のCIA職員だった。本来は体より頭を使うタイプだった彼が、アクションヒーローへの変貌を余儀なくされて何が起きるかが見どころの1つになっている。パインも時には、頭も筋肉も使うタイプのキャラクターに出合うことができた。

『スター・トレック』の次にパインが手にした大役は、『アンストッパブル』(10年)で演じた新米車掌のウィルだ。頭がよくて生意気だが、最後にデンゼル・ワシントン演じるベテラン機関士と力を合わせ、体を張って暴走列車を止める。

14年の『エージェント:ライアン』では、ハリソン・フォードやベン・アフレックらが過去に演じたトム・クランシー作品のアクションヒーロー、ジャック・ライアンを演じたが、これは役選びの失敗だった。パイン自身も後に「駄目だった」と語っている(もっとも紋切り型の台本の問題も多分にあったのだが)。

これまでで最も面白い役柄

16年の『最後の追跡』ではベン・フォスターと組んで銀行を襲撃する兄弟を演じた。粗暴な兄とは対照的な出来のいい弟という役回りで、これまでで最も面白い役だったと言えるかもしれない。

またミュージカル映画『イントゥ・ザ・ウッズ』(14年)ではシンデレラの王子役を演じ、ビリー・マグヌッセンとコミカルなデュエットを歌って新境地を開拓してもいる。

パインはスーパーヒーローものの作品に出たことはあっても、自身でヒーローを演じたことはない。『ワンダーウーマン』のシリーズで演じているのも主人公ダイアナの恋人(つまり脇役)のスティーブで、彼は「勇者に救われる捕らわれの姫君」のような立場。危険な目に遭ってはダイアナに救われる。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米バークシャー、24年は3年連続最高益 日本の商社

ワールド

トランプ氏、中国による戦略分野への投資を制限 CF

ワールド

ウクライナ資源譲渡、合意近い 援助分回収する=トラ

ビジネス

ECB預金金利、夏までに2%へ引き下げも=仏中銀総
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チームが発表【最新研究】
  • 4
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 5
    障がいで歩けない子犬が、補助具で「初めて歩く」映…
  • 6
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中