「携帯キャリアと正反対」 ネットフリックスが幽霊会員を退会させる狙いとは?
無関心化した消費者にとっては、例えば映画なら「自分にとってどの映画がおもしろいか」がよく分からず、プラットフォーム内に好みの映画があるかどうかも分からない。とはいえ、何か映画が見たいときにユーザーは、「このメディアであれば自分の欲求をかなえてくれる」と期待して、サブスクリプションに加入している。
無関心な消費者を満足させ続けることは難しい
その意味では、個々のコンテンツの差異に無関心化した消費者といえども、メディア体験にはなお期待を残していると言える。
ネットフリックスやスポティファイといったX放題のビジネスモデルは、こうした「無関心化した消費者」の特性を捉えて発展してきたと言えるだろう。
しかしX放題といえども、無関心な消費者を満足させ続けることは難しい。
自らコンテンツを選択できないユーザーにとって、メディアに期待する「無制限体験」を自分で実現することは困難だ。アクセス可能なコンテンツがいくらあろうと、その中からひとつを選べなければ、無制限体験どころか、ただ1回の体験もできない。
そこで事業者は、自ら選択する意欲を持たないユーザーの期待を、フリクションレス(手間いらず)で満たすため、メディア側からのリコメンドを通じて「選ばせる契機」を与え続けようとしている。
まずX放題各社はオリジナル大作を製作し、それを独占配信することでユーザーを自社サービスに囲い込もうとしてきた。彼らは無関心化したユーザーに対しても、オリジナル作品をリコメンドすることで視聴の契機を提供しようとしている。
だがこれではX放題といっても、実態は有料オリジナル作品配信サービスと変わらない。映像配信サブスクリプション事業者は、無制限体験の代わりに最低限のコンテンツ体験をユーザーに提供することで、かろうじてサービスの価値を維持してきたのである。
業界全体が1人の顧客を失ってしまう
映像配信サブスクリプションは同業他社とだけ競合しているのではない。常にテレビ放送やネット上の無料動画との間でも、ユーザーの限られた視聴時間を奪い合っている。
こうした状況の下で、サブスクリプションに加入したユーザーがコンテンツに失望した場合、そのコンテンツのみならず、映像配信というメディア体験そのものへの期待まで失われてしまう可能性がある。これを「メディア体験の毀損きそん」と呼ぼう。
「映像配信ってたいしておもしろくないのにお金を取られるから、もうYouTubeでいいや」となれば、業界全体が1人の顧客を失ってしまうのである。