新作アニメ『あの夏のルカ』、「同性愛が裏テーマ」説は本当なのか
How Gay Is Pixar’s “Luca”?
DISNEY/PIXARーSLATE
<イタリアの美しい港町で展開される2人の少年の物語が、カミングアウトを描いていると受け止められる理由は>
違う、あれはゲイ(男性同性愛)の恋愛話じゃない。監督のエンリコ・カサローザはそう言った。「あれ」というのは、ディズニー&ピクサーの新作アニメ『あの夏のルカ』のことだ。
監督が言うのだから間違いなさそうだが、『ルカ』に関しては予告編が流れた当初から、これって『君の名前で僕を呼んで』(2017年)のキッズ版じゃないかという噂があった。『君の名前で』は若い男同士のひと夏の経験を描いてアカデミー賞を受賞した作品。その監督グァダニーノの名が「ルカ」であることも、なんだか意味深だ。
しかしカサローザは、自分が描いたのは純粋に「プラトニック」な愛であり、そもそも「思春期以前」の話だと言う。もしもそこに『君の名前で』に通じるものがあるとすれば、それは自分も子供時代にイタリアの田舎で似たような経験をしたからだ、とも。ちなみに「ルカ」という名は単なる偶然。イタリアでは実にありふれた名だ。
それでも、そこに若い男同士の愛が透けて見えるのは事実。『君の名前で』ほど直接的ではないが、『ルカ』も性的なアイデンティティーや通過儀礼の問題、自分とは異質な人たちに抱く恐怖心などの問題を、いわば寓話的に描いている。
自身の正体を「カミングアウト」
主人公の少年ルカは、もともと海獣(シーモンスター)だが、素性を隠して地上で暮らしている。親の言い付けに背いて陸に上がり、そこで同じ境遇の少年アルベルトに出会った。当然、2人は仲良くなる。肩寄せ合って星を眺めるシーンなどは、文句なしにセクシャルでもある。
しかし2人の親は、2人が陸に上がったことも2人の関係も許さない。2人は一緒に逃げるのだが、陸の人間たちにも理解されず、自分たちのアイデンティティーを隠して生きていくしかない。ルカは地上の学校に入るが、アルベルトは慎重で、正体がばれたら大変だと思っている。
だが、やがてルカが地上の少女ジュリアといい関係になると、嫉妬したアルベルトは自分が海獣だと明らかにする。つまりカミングアウトだ。しかしルカは彼に同調せず、沈黙を守るのだった。
ルカの対応を、カミングアウトをめぐる同性愛者の苦悩に重ね合わせるのは、いささか乱暴だろう。それに(LGBTQでなくても)人が素性を隠す事情はさまざまだ。出生の秘密、人種の違い、あるいは在留資格の有無とか。