名優2人が静かに「愛」を演じ切った『スーパーノヴァ』は大傑作だ
Great Actors in a Great Movie
ファース(左)とトゥッチの抑制された演技が観客の心をわしづかみに BLEECKER STREETーSLATE
<コリン・ファースとスタンリー・トゥッチが描くゲイカップルの「最後の旅」は、静かに観客の心を揺さぶる>
俳優のコリン・ファースとスタンリー・トゥッチには、キャリアを積み重ねるうちに、いくつもの共通点が生まれた。愛される人柄、数々の映画賞、SNSの人気者......。
そんな2人が新作『スーパーノヴァ』で、ついにカップルを演じた。最近の世の中ではあまりお目に掛かれない素敵な出来事だ(付け加えれば、過去にゲイの役を演じたことがあるのも2人の共通点)。
20年来のパートナーであるタスカー(トゥッチ)とサム(ファース)は、キャンピングカーでイングランドを旅している。2人の最終目的地は湖水地方。ピアニストのサムはそこでコンサートを行う予定だが、この旅にはもう1つの目的がある。
タスカーは若年性認知症と診断されており、カップルは旅の途中で友人たちや家族と久々に再会を果たす。この旅は、いわば「最後の挨拶回り」なのだ。
タイトルの『スーパーノヴァ』とは「超新星爆発」の意味だから、広大な物語なのかとも思うが、作品世界はとても小さい。ほとんどの場面は、タスカーとサムの二人芝居。おまけに、どんなに美しい場所を訪れても、主な舞台はキャンピングカーの中だ。
この作品はあらゆる点で控えめだが、感情的なインパクトだけは別。キャラクターの内面は、まさに「超新星爆発」のようだ。
沈黙に感情を語らせる
監督・脚本のハリー・マックイーンは、説明を極力そぎ落とす。途中で大きな問題が明らかになり、タスカーとサムが何とか保ってきた危ういバランスが崩れた後、自然な描写に切り替わる。
マックイーンは観客が主演の2人に好感を抱いていることを計算に入れ、その思いをうまく利用する。トゥッチとファースをよく知る人は、すぐにタスカーとサムを応援するだろう。どちらかの大ファンではない観客でも、2人の親密な関係(実際にも友人同士)には心を動かされる。
作品の核心は行動ではなく、感情だ。それぞれの場面は単に物語を進めるためではなく、タスカーとサムの感情を形にするために作られている。数少ない会話には常に目的があり、沈黙の中で展開する場面も多い。キャンピングカーを離れてさまようタスカーをサムが捜すシーンなどは、せりふがほとんどない。
トゥッチもファースも、これまでスクリーンで弱さを見せるのをためらったことはない。この作品では何よりも、感情的な弱さを表現することを求められている。
タスカーとサムには、いいことも悪いことも起きる。そのなかで作品が目指すのは2人の人物描写よりも、彼らが直面する実に困難な出来事を受け止めることだ。