今年のアカデミー賞候補はハズレなし! 一方で過去の「駄作」候補は...
Good Movies in a Bad Year
作品賞にノミネートされた『シカゴ7 裁判』 NIKO TAVERNISE/NETFLIX ©2020
<ノミネートされた9本全てが傑作ぞろいなのはコロナの奇跡か。独断と偏見で斬る今年のアカデミー賞作品賞候補評>
かつてアカデミー賞の作品賞候補は5本だった。その数が2倍の10本に増えたのは、2010年のこと(12年以降は9本)。前年に、『バットマン』シリーズの最高傑作とも言われる『ダークナイト』がノミネートから漏れたことへの反省とされる。
おかげでここ10年ほどは、『17歳の肖像』『ウィンターズ・ボーン』『ネブラスカふたつの心をつなぐ旅』『ファントム・スレッド』『女王陛下のお気に入り』など、小粒だが優れた作品がノミネートされるようになってきた。たとえ受賞の可能性はゼロに近くても、こうした作品が候補に加わることでアカデミー賞全体の質が高まった。
だが、それには代償もあった。作品賞候補に駄作が入ることも増えたのだ。実際、候補作が増える前の20年間は、作品賞候補になった(筆者の考えるところの)ハズレ作品は計4本だったのに、この10年は計12本以上もある。
毎年1本は駄作候補が
せっかくだからタイトルを挙げておくと、2010年以前の20年間の駄作は、『ドライビングMissデイジー』『フォレスト・ガンプ/一期一会』『ブレイブハート』『クラッシュ』の4本。ただし4本とも作品賞を受賞していることは注目に値する。
一方、この10年間にノミネートされた駄作は、『しあわせの隠れ場所』『英国王のスピーチ』『ヘルプ〜心がつなぐストーリー〜』『ミッドナイト・イン・パリ』『レ・ミゼラブル』『アメリカン・スナイパー』『レヴェナント:蘇えりし者』『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』『グリーンブック』『ボヘミアン・ラプソディ』『バイス』『ジョーカー』など、少なくとも12本。毎年1本は、ロクでもない作品が映画界最高の賞候補に交ざり込んでいる計算になる。
それだけに今年は特筆に値する。20年はコロナ禍に見舞われ、新作の公開や製作が遅れ、興行収入が激減するなど、ハリウッドにとっては散々な一年だったが、今年のアカデミー賞作品賞候補には、駄作が一本もないのだ! これは衝撃的な快挙と言えるだろう。
まず、問答無用に素晴らしいのは、『ミナリ』『ノマドランド』『サウンド・オブ・メタル〜聞こえるということ〜』の3本。万人向けではないが、間違いなく傑作と言えるのは『ファーザー』と『ジューダス・アンド・ザ・ブラック・メサイア』だろう。