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菅首相、1分に1回以上口にする「ある口癖」 言葉が心に届かず不安にさせる理由とは

2021年1月16日(土)13時55分
岡本 純子(コミュニケーション・ストラテジスト) *PRESIDENT Onlineからの転載

シンプルに伝えようとしない謎

リーダーシップは語尾に宿る。だから、リーダーには言い切る勇気が絶対的に必要だ。筆者は常々、コーチング相手のエグゼクティブに口を酸っぱくして伝え、徹底的に、このクッション言葉を排除するよう指導する。

排除すべきは「思う」だけではない。

・非常に厳しい状況だと認識いたしております。
・心から感謝を申し上げる次第です。

というように直接的な表現を避けるクセをもつ人が多い。

「非常に厳しい状況です」「心から感謝します」とシンプルには言わないのは、スピーチ原稿を書く官僚特有のレトリックなのかもしれない。安倍晋三前首相の時も同様の表現が頻出したが、こうした回りくどさを排除しようと心がけるだけで、あっという間に話し方を変えていくことができる。

コミュニケーションにおいて大切なのは、「何を伝えるか」だけではない。「どんな思いを伝えるのか」がカギとなる。12月に上梓した拙著『世界最高の話し方』(東洋経済新報社)の中で、世界標準の話し方のノウハウを詳述しているが、政治家の場合、コロナ禍で国民の支持率を分けたのは、話す本人に共感力があったかなかったかということだった。

人々の気持ちに寄り添い、その苦悩を分かち合う姿勢を見せた指導者には支持が寄せられた。一方的に指示を出す「教官型」から、国民の感情を揺さぶる「共感型」へと、求められるリーダー像が変わってきているのだ。

菅首相は会見の中で、「皆さんの不安はよくわかる」「一緒に何とか乗り越えていきましょう」など、国民の思いに共感し、気持ちの伝わる言い回しはしなかった。一方で、緊張感をほぐそうとするのか、照れ隠しなのか、不必要に笑顔を見せる場面があった。

菅首相は言葉に真摯な「思い」を乗せているか

「言葉に体重と体温を」

これは衆議院議員・小泉進次郎氏が2016年に大学生向けの講演で語った言葉だ。言葉には真摯な「思い」を乗せる必要がある、というわけだ。父親譲りの"小泉流"のパフォーマンスはあまり感心しないが、菅首相はこの自民党の後輩の言葉だけは取り入れるべきかもしれない。

「思います」会見や、「思いが乗っていない」会見を量産してしまうのは、やはり菅首相本人に原因があると言わざるを得ないが、それ以外にも要因がある。内輪の記者だけを招いた「記者会見」方式だ。原稿を読み上げるだけのリーダーも問題だが、記者も用意した質問を読み上げるだけという「予定調和」では、緊張感も生まれない。

1月4日の会見で菅首相は「GoToトラベルの再開は難しい」「緊急事態宣言は限定的に、集中的に行う」などと述べた。だが、この重要なポイントは本来のスピーチの中で言及したものではない。記者から質問されて初めて出てきたのだ。質問されなかったら、言わなかった可能性もある。

「釈迦に説法」で心苦しいが、人に伝える時の最重要ポイントは、冒頭のスピーチにギュッと詰め込んでおくことだ。この際、記者を通じて間接的にメッセージを伝えるという形ではなく、直接、国民に訴える形のコミュニケーションを検討してはどうだろうか。

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