実写版『ムーラン』の迷走に学ぶ中国ビジネスの難しさ
Disney’s ‘Mulan’ Disaster
自国政府から中国での事業に待ったをかけられた企業も多い。インド政府はカシミール地方で中国との軍事衝突を受け、あらゆる領域で中国との関係断絶を進めている。米政府は国内での事業を禁止する中国企業を毎週のように追加しており、取引のある米企業に影響が及んでいる。
こんなとき、多くの企業は取りあえず様子を見て、嵐が過ぎ去るのを待とうと考えがちだ。なにしろ中国市場は巨大で、そう簡単に諦めるわけにはいかない。それにこれまでにも、一時は中国と激しく対立したが、数年後に「仲直り」した国があった。
例えばノルウェーは、2010年にノーベル賞委員会が中国の反体制活動家にノーベル平和賞を授与したのを機に、対中関係が悪化していたが、2016年に関係を正常化した。だから企業には、今は厳しい状況でも、いずれ中国の政治の振り子がリベラルな方向に戻ってくるという期待がある。
「明日の中国」の出方は不明
だが、その振り子は強権的な方向に激しく振り切れ、鎖ごと引きちぎれてしまった。習が権力の座にある限り、政治的パラノイアと排外主義は大きくなる一方だろう。アメリカの対中強硬路線も、トランプが11月の大統領選に勝とうが負けようが続くだろう。中国専門家のビル・ビショップはニュースレター「シノシズム」で、「今後数年を考えると、米中関係は今が最高だ」と述べている。
もちろん、中国政府の要求に徹底的に従うという戦略もあり得る。ホテルチェーンのマリオット・インターナショナルはこの戦略を取ってきた。航空各社も台湾の表記をめぐり、中国政府の要求に応じる変更をしてきた。
だが、こうした態度はアメリカ国内で大きな代償を生じさせる可能性がある。中国の要求をのんだ企業は議会公聴会に呼び出され、公共事業の入札から締め出され、メディアで猛攻撃を受けるだろう。
そうしたリスクに目をつぶって中国市場を目指しても、いずれ現実との巨大なギャップに慌てることになる。「自分の業界は米中摩擦と無縁だと思っていると、その自信に足をすくわれる」と、ある中国アナリストは語る。
いまだに13億人市場に甘い夢を見ている企業は、今すぐ目を覚ますべきだ。たとえ今日の中国に対処できても、明日の中国がどう出るかは全く分からないのだから。
<本誌2020年10月6日号掲載>
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