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『パラサイト』を生ませた女──韓国映画の躍進を支えたある女性の奮闘記

The Power Behind Parasite’s Success

2020年2月19日(水)19時00分
ジェフリー・ケイン(ジャーナリスト)

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半地下で暮らすキム家の長男ギウ(右)と長女ギジョン(左) © 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

CJエンターテインメント共同製作の『D-WARS ディー・ウォーズ』(2007年)は、キャストもスタッフも国際的な大作。伝説の怪獣が眠りから覚めてロサンゼルスで人類に戦いを挑むという物語だが、評価は散々だった。

『ザ・シンプソンズ』のアニメーターであるネルソン・シンが製作したアニメ映画『王后沈清』(2005年)は、画期的な南北朝鮮の合作アニメ作品だった。だが最初の週末の興行収入は約14万ドルで、650万ドルの製作費を回収するどころでなかった。

失敗が続いた。しかし李は、有名監督には口出ししない方針を保った。

突破口が開けたのは2013年、ポン・ジュノが監督した『スノーピアサー』だ。暗黒郷を走り続ける列車の後部車両でゴキブリを食べて暮らす貧しい人々が、先頭車両にのさばる権力者たちに反旗を翻す。

韓国ではヒットしたが、ハリウッドの大物ハービー・ワインスティーンがアメリカでのヒットを狙って「アイオワやオクラホマの観客」にも理解できるよう、繊細な会話が繰り広げられる約20分の部分をカットしようとした。

韓国政府にも受けが悪かった。強権的な姿勢を強めていた朴槿恵(パク・クネ)政権により、CJは助成金ブラックリストに載った。機密扱いの報告書によると、CJの「左派化が進む企業風土と活動方針」に関する評価が行われた。2015年には、弟の在賢が脱税で実刑判決を受けている(翌年に特赦)。

李は健康悪化を理由としてカリフォルニアに移り住んだ。「健康問題も含めてトラブルが重なり、しばらく外国に行くしかなかった」と、事情を知る元社員は言う。

だが『スノーピアサー』は、韓国映画が世界の主流に躍り出る先陣を切った。韓国の映画監督は賢明にも、利益ばかりを追求するワインスティーン流や大量生産モードに傾かなかった。ポンの作品はスリラーっぽいテイストを持っていたが、彼が若い頃、深夜に見ていたホラー映画をはるかに超える域に達していた。

韓国の監督たちは個人、つまり最もクリエーティブな要素に忠実でいることを学んでいたのだ。彼らは韓国社会をむしばむ病弊を見据え、格差社会を助長する企業から製作費を受け取りながらも、格差をえぐる作品を作った。

この姿勢は世界からも支持を得た。韓国映画の昨年の興行収入は、16億1000万ドルに。大ヒット作が出始めた2004年には、わずか3億7000万ドルだった。

こうした歴史を経て生まれたのが『パラサイト』の成功だ。それはハリウッドで闘い続け、一度は政府のブラックリストに載せられながら、大舞台でカムバックした李美敬にとっての勝利でもある。

From Foreign Policy Magazine

<本誌2020年2月25日号掲載>

【参考記事】寄生する家族と寄生される家族の物語 韓国映画『パラサイト 半地下の家族』
【参考記事】外国語映画初のアカデミー作品賞受賞『パラサイト』 ポン・ジュノの栄光を支えた二人の翻訳者とは

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