最新記事

韓国

韓国、若手作家が文学賞を告発 商売か芸術家の尊厳か

2020年1月13日(月)13時00分
ウォリックあずみ(映画配給コーディネーター)

作家が激怒! 30ページも本文をさらすBookTube

他にも、出版界では最近こんな問題が出て波紋を呼んでいる。1月4日作家ク・ビョンモ氏は、自分の作品を30ページにわたってYou tubeに公開している本のレビューチャンネルに対しTwitterを通じ抗議をした。

昨今、韓国では「ブックチューブ」と呼ばれる書評動画がYouTube上で流行している。ク・ビョンモ氏は、作品の一部ならまだしも30ページは公開しすぎだとし、「レビュー用の本文引用は5ページ未満までキャンペーン」でもしなければならないかな?と皮肉めいた発言まで投稿した。

本の売り上げが伸びない出版社も大変なのだろうが、プロモーションに必死になり、人気ブックレビューYouTuberには頭が上がらない状態だという。なかにはYouTuberに取り上げてもらうため、印刷所に入稿する前の原稿データを渡したところ、発売前の内容を流出されることすらあるという。

「何かを得るには何かを失わなければならない」という言葉がある。今回、作家たちの訴えがあったように、知名度を上げ、地位や名声を勝ち取るためには、作品の権利を手放す代償は仕方のないことなのだろうか?

K-POPでは、デビューと引き換えに借金も?

newsweek_20200113_131051.jpg

不当な契約を告発したMOMOLANDの元メンバー、デイジー KBS News / YouTube

一方、芸能界では最近こんなニュースが注目を集めている。K-POPガールズグループのMOMOLANDは2016年に韓国で人気のオーディションサバイバル番組から誕生した。しかし、元メンバーだったデイジーが、このオーディションは出来レースだったとKBSのニュース番組内で告発。さらに、このサバイバル番組の製作費数億ウォンは、メンバーに割り振られて、ひとり当たり7000万ウォンの借金を追わせていたことまで暴露した。

デイジーは「制作費を出すのが当然だと聞いてお金を出した」と支払ったことを明かしている。これに対して所属事務所側は「制作費負担については、メンバーに説明したうえで本人が契約書にサインをしたので問題がない」と答えている。

デビューと引き換えに代償を払わなければならなかったオーディション番組は他にもある。ニュースで取り上げられたものといえば『明日のミストロット』が記憶に新しい。この番組は、トロットと呼ばれる韓国演歌の再ブームの火付け役となったほど人気があったが、1~4位の上位入賞者に対して、放送終了時から2020年末までのイベント及びTVの出演料などを含む収入のうち、なんと25%がオーディション番組の放送局であるTV朝鮮に入金されるよう契約されていたのだ。

このようなニュースを耳にすると、メディアという強者が若手作家やデビューしたてのアイドルに権力を振りかざし、強制的に契約を結ばせているように見えるかもしれない。もちろん大部分の世論もそのように感じて抗議している。しかし、ネット上の意見をよく見ていると、「受賞しているのだからマーケティング費用だと思えば安いものではないか?」という肯定的な意見も一部見られる。

受賞によって注目を浴びるのは確かだ。文学賞は多くのニュースで作家や作品の名前が取り上げられた後、満を持して本が発売される。アイドルたちはオーディション番組で視聴者から最高潮に関心を集めた状態でデビューできる。その為なら少しの代償は仕方ないのだろうか? 文学にしても芸能人にしても、本来の意味から離れ、受賞そのものがマーケティングの一部と化している部分に問題があるようだ。

毎年発売される「李箱文学賞作品集」は、韓国のどの家にも1冊はあるといわれてるほど、韓国文学界に無くてはならない権威ある文学賞だ。そんな巨大な存在を相手に告発をした作家キム・グンヒ氏は相当の勇気が必要だっただろう。これだけ知名度のある賞でこの条件なのだ、その他数ある賞の裏側ではどのような取引が行われてきたのだろうか?

文学界だけでなく、ここ数年韓国の文化・芸能分野において、今まで闇のベールに隠されていた事実が次々と浮き彫りになっている。これまで暗黙の了解として支払われてきた代償に、今一度疑問を持って考え直す分岐点に差し掛かっている。今回問題となった李箱文学賞もそれを乗り越え、より一層素晴らしい文学賞となり、伝統を受け継いでいってほしい。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ルペン氏に有罪判決、次期大統領選への出馬困難に 仏

ビジネス

金、3100ドルの大台突破 四半期上昇幅は86年以

ビジネス

NY外為市場・午前=円が対ドルで上昇、相互関税発表

ビジネス

ヘッジファンド、米関税懸念でハイテク株に売り=ゴー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 10
    「関税ショック」で米経済にスタグフレーションの兆…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中